未完成骨董品

と言おうとした時、彼の第六感が何かを諭した。
『来るぞ』
 自分の中の内なる声からの警告。それと寸分狂わず、タイヤのスキール音をさせ、一台の車が交差点から現れた。
 けたたましくホーンを鳴らしながら、目の前の車、対向車の向かってくる車の間を蛇行で切り抜け、駆けていく。―が、
『GAaaaaAaaaaa―………!!』
 けたたましい叫び声と突如空から大柄の化物がその車の目の前に降り立ち、地面を殴り付けた。
 その凄まじい衝撃で大きく隆起したアスファルトに巻き込まれ、その車と周囲の車が横転し、周囲の建物が揺れ、亀裂が入る。
「な、なんだぁ!?事件か!?」
 翔一と千鶴が突然の出来事に戦慄する。何もない日常が突如として映画のワンシーンのような場面に変わった。
「何よ、アレ…」
 千鶴の言葉通り、事故現場から見たこと見ない化物のシルエットが現れ、辺りは騒然となる。
 ファンタズマ。この日本において、彼らの存在が、一般市民に知らされることはほとんどなかった。
正確には、国による報道規制があり、内部で動く特務9課の存在が大きい。
また、ファンタズマによる襲撃がテロ事件のように、突発的かつランダムに発生していることもそれを助長していたのだ。
「…おい、駈龍の奴、何所行った?」
 辺りが突然の出来事に騒然とする中、翔一は彼の姿を見失っていた。

「真、しっかりしろ!」
「は、はい!」
 強力な打撃により宙へと吹き飛び、大破した車から二人は這い出るように脱出した。
 そこはまるで戦場だった。整えられたきれいな市街地が、一瞬でガレキと炎と血の匂いのする場所へと変わる。
「ぎゃぁぁぁぁ……!」
 断末魔の叫び声が聞こえる。二人がそちらを見ると化物が、二人の男女を頭部から鋭利に伸びた角で突き上げ、喰らっていた。
 生命力を奪われた二人の人間が瞬く間に砂塵と衣服だけとなる。
「野郎ッ…!!」
 涼が歯を食いしばり、立ち上がろうとする。
「グッ!?」
 だが、足に激痛が走り立ち上がれない。見れば右足のブーツが血まみれになっていた。
「先輩!早く!」
 アタッシュケースを持った真が空いた左手で彼を立ち上がらせると肩を貸した。
“すまねぇ”と悔しさを滲ませながら、彼は真の肩を仮り、右足を引きずるようにして立ち上がるとライフルの銃口と共に化物を見る。
「uaaaa……」
 化物と目が合う。涼は条件反射的にライフルの引き金を引いた。しかし、ライフルは動かない。
「こんなときに!」
 化物がその歩を進め、こちらへ向かってくる。
 使い物にならないライフルを向け、後ずさりする二人。しかし、その距離はますます縮まっていく。
 絶体絶命というまさにその時だった―
「おい、ファンタズマ。こんな辺境までやってくるとはいい度胸だな」
 その威圧のある声と共に一陣の風が吹いた。
 ファンタズマ、真と涼がその声がする方を見ると、一人の少年がブレザーの前を開け、ラフな井出達で化物を睨みつけていた。
 それは、翔一らの前から姿をくらませた天野 駈龍その人であった。
「長く続いたヨーロッパ戦線から引き揚げて、しばしの休暇を楽しむ予定だったけど…」
 彼は右腕を大きく広げ、何かを呼び出すような仕草をした。
「それは今この瞬間、取り消しだ」
 刹那、それに呼応するように空間がプラズマを発しながら歪み、やがて、収束して彼の手中へ一本のハルバードが現れる。
 白銀の、その長い柄に竜の装飾が施され、機械錬成されたポールウェポン。
「あれは…!まさか、アイツ―」
 涼にはそれが何なのか、瞬時に理解できた。
「Uggu
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まろやか投稿小説 Ver1.50