ガラスのように割れ、砕けていく化物を見て、真は思わず声を上げる。
「隊長!!」
銃声と共に涼が叫ぶ。状況はより深刻だった。
真が振り返ると、眼前には首を掴まれ、持ちあげられたウィルヘルム隊長の姿があった。
「真ッ!」
最後のあがきなのか、ウィルヘルムは持っていた特性アタッシュケースを二人の足元に乱暴に投げつけた。
「い…ケッ!俺が、やられる前に―」
首から透明な化物がウィルヘルムの体を浸食していく。それはまるでアメーバが別の細胞を浸食しているように見えた。
その光景に茫然する真の手を、涼は掴んだ。
「真、逃げるぞ!」
その声に彼女は我に帰ると、反射的に足元のケースを手に取った。
「でも、先輩、隊長が!!」
「奴らの具象化の土台にされた人間はもう元にもどらねぇ!!」
彼の言葉と共に、化物が実体化する。ウィルヘルムの体を元に、形成されたそのシルエットは、まるでミノタウロスのようだった。
「UGAaaaaaaaaaa!!!」
獣の様な雄叫びを上げ、その化物は大きな拳を振り下ろす。
巨大な拳がアスファルトを容易に砕き、都市高速の道路が崩落を始めた。
「やべぇ、逃げるぞ!」
涼に手を引かれ、真は走る。背後に迫る化物と道路の崩落。為すすべくなく、生き残った二人は前方に止まっていた一台の乗用車に乗り込むと乱暴に車を発進させた。
「とにかく本部まで逃げる!おい、真!本部へ入電しろ!非常事態だってな!!」
ハンドルを握る涼は、そう指示を出す。だが、真は返事しない。
見ると彼女は震えていた。初めての事だからか、それとも人がこうもたやすく死んで、化物になってしまうのを見たのがショックだったのか、震えていた。
「真!しっかりしろ!」
片手で真の肩を揺らし、チラリとサイドミラーを見る。
化物が、その人間ばなれした脚力で走り、追ってきている。目的はあくまで、このケースの中身のようだ。
「クソッ!」
彼女の肩にかけてあった通信機を乱暴に奪い取ると、車の進路を変え、都市高速から降りた。
『本部、聞こえるか!?緊急事態だ!』
そして、通信機のスイッチを入れると同時に彼は叫んだ。
たまたまなのか、学年度の始めである今日は、昼過ぎには下校時間となっていた。
駈龍にとってはわずかな間であるが、久々の日本の学校や久々に帰ってきたこの街の様子を見て回るには十分だった。
「―まさか、あの悪ガキ坊主が、天乃財閥の跡取りで、こんな普通の学校に入るなんてなぁ」
放課後、馴染みのある道を3人で歩む。
駈龍は乗ってきたロードバイクを牽きながら、幼馴染の翔一は笑った。
小学校の、わずか3年ほど。駈龍と翔一は共に過ごした。その頃は当然というべきか、この地域の悪ガキというレッテルを張られるほど、悪行の限りを尽くした。
とは、言っても本人達にとっては義賊のような行動をしているにすぎなかったが…
「翔一ももっと早く私に言ってほしかったなぁ。天乃君が翔一の親友だなんて、全然今でも信じられないだけど」
駈龍を挟むように、千鶴は肩透かしを食らったような顔でそう告げる。
「別に言う必要なかったら、言わなかっただけだよ」
“それにお前お節介だからな”と言葉を濁しながら、翔一は答えた。
それを聞いて、千鶴も“何それ”と頬を膨らませ、クドクドと説教を始める。
掌をぷらぷらさせ、“聞きあきた”というジェスチャーをしながら、翔一は足早に歩いていく。
翔一と千鶴は幼馴染だという。幼いころから転校が多かった駈龍には少しばかり羨ましく思えた。
「おい、二人とも―」
“待ってくれ”
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