未完成骨董品

駆る車に後れを取らないように進めていく。
「先輩は訓練の時から緊張感がなさすぎです。隊長もなんか言ってください!」
 むぅと顔を曇らせ、後ろの席に座る隊長こと、ウィルヘルムへ助けを求めた。
後ろのその席で、大柄で揃えられた短髪を持つその男は、ギターケースの大きさの特性ケースを膝に乗せ、軽く鼻で笑った。
「真。父親の指揮するこの部隊に入ったからって、変に肩を張る必要はない」
 そして、落ち着いた口調で言い聞かせるように、“訓練の時と同じように、やるべきことを、キチンとやればいい”と続けた。
「そうは言われても…、今回は突発的にファンタズマが具象化し、発生しているではないですか。なんていうか…、先から嫌な感覚が収まらないのですよ」
 それは、真の小さい頃の癖だった。何か善からぬことが身の周りで起こる前兆として、第六感としてなのか、心が揺さぶられるような感覚に襲われるのだ。
「まったく、オレはそういう信憑じみたモンは信じないけどよぉ。隊長、確かに今回の任務。なんか匂いません?」
 チラリとルームミラーごしに、涼はウィルヘルムを見た。
「報告書をさらさらとですが、目ぇ通したんですけど。なんというか、状況が最初から筒抜けになっているような、そんな気がするんですよねぇ」
 その問いかけに、ウィルヘルムは“俺もそう思う”と答えた―その刹那。
 轟音と共に、突如前方を走る複数の車が大きく跳ね飛ばされた。
「うおッ!?」
 急ブレーキをかけ、車を停止させる。彼らの前後にいた同僚の車両も同じように停車する。
 再び起きる轟音。それは突発的、瞬間的な、大きなつむじ風だった。
「ファンタズマか!?クッ、戦闘態勢!」
 螺旋を描き捲きあがる風に、彼らの攻撃の特徴である虹を見たウィルは無線機を取り、一斉に仲間へ指示を出した。
 ハマーから飛び出し、銃を構え、陣形を取る隊員たち。
 都市部の道路上ということもあってか、辺りは騒然としている。
「真、俺の側から放れるな!奴らは、心の弱い奴から狙ってくるぞ!」
 対ファンタズマ様に回収されたライフル銃のセーフティを解除しながら、涼は真に告げた。
「ぇ?はい!」
 ヘルメットにつけられた認知用バイザーを下ろす。
ファンタズマは、この世界とは違う次元に生きている生命体とされている。そのため、この世界の“視界”では彼らの姿を認識することができない。
このバイザーは、相手方の次元に合わせた、いわば相手を認知するための“目”をしている。
小銃を構え、二人は辺りを見回す。
 そして、真は自身より左前方の、横転した車の上に、不気味な影を見つけた。
『kkleeeee………』
 耳に、確実に、この世の物ならぬ化物の声が響く。全部で3体。
 グニャリ、グニャリ、と虹色の化物が紅い眼光でこちらを見下ろしていた。
「真!撃てぇ!!」
 涼の言葉よりも早く、彼はライフルを撃っていた。間髪いれず、周りの仲間たちもその化物に一斉に専用の銃弾を喰らわせる。
 刹那、反応が遅れ、逃げ遅れた1体が、バリンバリンとガラスの割れるような音を立てて、崩れさる。
残る2体、大きく宙を飛んだ2体の内、一体は二人の前方に陣取っていた隊員3人の背後に着地した。
「真、カバーしろ!」
 涼の指示よりも早く、化物が一瞬で隊員3人を切り裂く。彼らに触れられた3人は、その切り口から瞬く間に砂化し、形状崩壊した。
「ヒッィ!?うわぁぁぁぁぁぁッッッ………!!!」
 恐怖と怒りに駆られ、真の銃を唸ったのは、その直後。真の声に振り返った透明な化物が、ハチの巣になる。
「―や、やった!?」
 
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まろやか投稿小説 Ver1.50