未完成骨董品

令の背面、大型スクリーンに映し出されるソレは、イメージしていたものではなく、きれいな白い刃に白弧を模した装飾がなされた刀と篭手であった。
「80年前の戦いの時、ファントムと呼ばれ、人類を壊滅の危機から救いあげた戦士達。その一人の姿を幻装機兵として再現したのがこの武器だ。だが、今現在適応できる人間は現れていない。それどころか、最近この『フォックス』を狙い、ファンタズマの尖兵が相次いで襲撃を繰り返している」
 “君達には、目的地であるこの支部への道中、その護衛を担ってもらいたい”
  司令の言葉を胸に、真は仲間と共に車へと乗り込んだ。
  目的地は新風成都の郊外にある空港入り口である。

 私立成都学院。
 市内にいくつかある学校群の中で、比較的良心的な学費として知られる学校である。
 しかし、そんな学校が一際賑やかになっていた。
 ドイツからの帰国子女で、とある企業の御子息で、格好の良い男子が転入してくるらしい。
 そんなまことしやかにどこからか漏れた話が、大きく話題を呼び、現れたその者に皆は興味の目をむけていた。
「…へぇ、転校生ねぇ」
 話題の転校生を見に、その者がいるクラスへと駆ける女子を見て、ニタリとその者は口元でほほ笑むと、寝転がっていた机の上から体を起こし、教室を出た。
「どれ…」
 決して粗製の良い者ではないことは周囲に知れ渡っていた。
 日比野 翔一。
 この成都学院においてもっとも成績の悪い生徒であり、いわゆる不良という部類に入る。
「一つ顔でも拝みにいこうかね…」
 小さくつぶやくと翔一はその者がいるクラスへと歩を進めた。
 その者は、三つ隣のクラスにいる。
 集まった人盛りの賑やかなけん騒が彼の姿を見ると、途端に静まり、彼を歩む道を遮る者は誰ひとりいない。
 真直ぐに、教室の入り口からその者がいる机まで、一直線に道が開けた。
 話題の転校生であるその者―天乃 駈龍(くりゅう)は、このクラスの委員長であり、風紀委員長でもある烏丸 千鶴のレクチャーを受けていた。
 一つ一つ千鶴の言うことを確認しながら、穏やかな顔で会話している。
 それを見て、翔一はやや乱暴に教室へと踏み入れた。
「…あっ、翔一」
 彼の姿に気づいた千鶴を退け、翔一は、机に座る駈龍の前に立ち、鋭い目付きで彼を見下ろした。
 それに対して、駈龍も先ほどの穏やかな表情から一転し、『何者だ?』と言わんばかりに、鋭い目付きで睨み返す。
「ちょ、ちょっと、翔一。どういう―」
 一触即発の空気に慌てて、仲裁しようと千鶴が言葉を発した刹那、翔一がその拳を造り、振り下ろした。
 次の瞬間、“パァンッ!”と乾いた音を起て、辺りが静まり返る。
 翔一は笑った。同じく駈龍も笑う。
 顔に向けて放った一撃は、駈龍の右手に受け止められていた。
「よう、久しぶりだな?ダチ公」
 そうなることを予期していたのか、翔一は嬉しげに笑うと受け止められた拳を解いた。
「お前こそ…。俺を誰だと思っている?俺は―」
 椅子から立ち上がり、駈龍は窓の空を見る。
「天を駆ける龍になる男だ」
 そして、自信と強さに満ちた目で空を見上げた。

 3台の銀色のハマーが、空港からの帰路、都市高速を駆け抜ける。
 その中央の車両、助手席に座る真は幾分馴れて来たものの、未だに馴れぬ空気に顔は固かった。
「よぅ、真。まだ緊張しているのか?」
 それに気づいたのか、車を走らせる彼女の先輩、瀧村 涼は、“リラックスだ、リラックス”と軽い口調で話しかけて来た。
 軽やかなハンドルさばきで、車の通りが多い都市高速の合間を他の隊員が
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まろやか投稿小説 Ver1.50