13.『終焉/破壊の牙』

身を跪かせ、コクピットハッチを開く。
「フィオナ様!」
『アルトセーレ!!貴様、またしても育て親である私にたて突くか!?』
 大きく跳ね飛ばされたグローリー・スターも起き上がり、突如現れた相手を睨みつけた。
 衝撃で変形した機体の右上腕を機械の化物で補修させながら、スモークマンは怨めしく声を荒げた。
「ならばお前がどれほど無能な者か、教えてやろう!」
 彼の叫びと同時に修理を終えたグローリー・スターが動き、狙いをつけた。
 ロックオン・カーソルが捕えるは、灰色の機動兵器に向かって駆けていく小さな人影―
「フィオナ様!!」
 コクピットに響く警告。
 アルトセーレは焦り、大きく手を伸ばす。

“アルトセーレが来てくれた!”
 フィオナは嬉しさで涙を流していた。彼女は思いだしていた。
 昔、彼女と初めて出会った時と同じ、だと。
 幼き日、島を出たくなって、島の家から両親やセティアらに内緒で人気のない砂浜まで抜け出した。
 そこで、獰猛な野生動物に襲われて、危ないところを助けたのが、アルトセーレだった。
 それ以来、侍女として彼女が島の離れる一年前まで、ずっと共に過ごしてきた。
 専属の侍女以上の、友達とも言える、家族とも言える、そんな関係。
 まだ弱い自分があこがれるヒロインのような強い彼女。
 時間を得て、再び彼女は自分の元に戻ってきた。父も母も、そして、侍女達も亡くなった今、頼れるのは彼女だけだ。
 ふと体が浮く。
 背中が熱い…
 ”息が、できない…?”
 持っていた父親の形見が、突風で攫われる様に、その両手から放れ、宙を舞う―

 放たれる一発のミサイル。
 不規則な機動を描き、飛んでくるソレを視界に捕えながら、アルトセーレは息を呑んだ。
 ―爆発。
 不規則に機動を描いていたソレは、アルトセーレの視界の中で、少女の背面で地面へとぶつかり、大きな火炎と突風を生んだ。
 その火炎にフィオナの姿が呑みこまれ、爆風でアルトセーレは跳んできた地面の破片と共にコクピットへと押し戻され、そのハッチが再び閉まった。
「―ぁ…あ…あぁぁ……」
 震えながら右手を伸ばす。
 モニターが映す先、フィオナがいた場所は陥没し、ただのチリチリと炎を上げる荒れ地と化していた。
「フィオナ…様ぁ…―」
 開いた右手を強く血が出るくらい握りしめ、アルトセーレはガクッと力なく俯いた。
『まだだ!』
 ―と、突然機体が大きく浮き上がり、浸食した大地へ叩きつけられた。
『まだ戦闘中だぞ、アルトセーレ!!』
 疾風のごとくグローリー・スターがブースターを吹かし、跪く灰色の人型機体へ前足蹴りを喰らわせたのだ。
「貴様はこの私が直々に指導してやろう!―ムッ!?」
 倒れた灰色の機体を見て、スモークマンは目を疑う。
 その顔面に着けられていた灰色の仮面が衝撃で割れ、中から見覚えのあるシルエットが現れたのだ。
 メタリックの入った紅と汚れのない白で彩られたAC規格のパーツ。
 HD−223 RAIKOと呼ばれるモノアイの戦闘型ヘッドパーツだった。
『ウアァァァァァァァァァァァァァァッ―………!!!』
「ウッ…!?何だ、この威圧感は―」
 アルトセーレの咆哮と共にそのモノアイに強い光が灯る。仰向けで倒れていた“その機体”は、意思を持ったようにゆっくりと起き上がり、浸食した大地にしっかりと踏み立つ。
「バカな!?」
 あらゆるものを浸食し、生体機械に変えてしまうエンデュミオンの浸食作用が“その機体”に限っては一切行われなかった。

 コクピットの中。
 歯を食いしばり、嘆き、悲しみ、獣のごとく
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まろやか投稿小説 Ver1.50