12.『現在(いま)/目覚め』

こんな結末を見るために帰って来たのではありません…」
 銃をフィオナから取り上げ、アルトセーレは静かに顔を上げた。
「貴方を島の呪縛から解き放ってほしい。それがあの人の、私への最後の依頼―いや、最後の願い…」
 アルトセーレは続ける。
「彼が望んでいたのは―、あなたの、一人の人間としての幸せです。だから、貴方はこんなことをしてはいけない…」
アルトセーレが震える声でフィオナに語りかけた。
「アルトセーレ…」
 フィオナは知った。
 この侍女の強い思い、決意を。
 そして、自分の思いを伝えようと“ごめんなさい”と言葉を斬り出した…
 ―次の瞬間、けたたましい轟音と共にさきほど乗ってきたエレベーターが変形・爆発した。
「フィオナ様!」
 とっさに自身の胸元へとフィオナを引き寄せ、アルトセーレは身を伏せて飛んできた鉄の破片をやり過ごす。
「大丈夫ですか?フィオナ様」
「え、ぇぇ…」
 フィオナの無事を確認すると、アルトセーレはその硝煙上がるエレベーターの方を睨みつけた。
「あの…キメラは―!」
 エレベーターの通路を破壊し、地上より降りて来た機械の羽が生えた化物。
 咄嗟にアルトセーレは、手に握っていた軍用拳銃で化物の顔面らしき場所へ連射した。
 火花を散らし、その痛みからか、半身をアシカのように反らせ、咆哮上げる姿の―、その胸部、中心にはミイラと化した元人間の痕跡が見えた。
「お父さん!」
 何かを感じ取ったのか、フィオナはその化物を見てそう告げる。
『どうだね?私が多額の資金と回収したここの遺失技術で蘇った“彼”は?』
 化物の背後から2体のACが姿を現す。スモークマンが駆るACグローリー・スターだった。
「スモークマン!貴様ァッ!!」
 アルトセーレが、その名を鬼の形相で叫ぶ。
「この島を管理課に置くためには、“完全”とした制御が必要だ。そのために、彼には生体ROMになってもらった」
 “素晴らしいだろう?”と、茫然とするフィオナに悪魔は誇らしげに訊ねた。
「アレが島の中枢だな。やれ!島のシステムと融合しろ!」
 スモークマンの指示を受け、ラグナロックは四つん這いで祭壇へと近づいてくる。
「ッ…!」
 ―と、突然アルトセーレの手を振り切り、フィオナが化物の前へと駆けだした。
「お父さん!やめて!」
 だが、化物の進撃は止まらない。
 その右手が容赦なく先まで乗ってきたジープを踏みつぶした。
 ジープがまるで卵が割れる様に、一瞬で部品やオイルを四方八方へまき散らし、鉄屑へと変わってしまう。
『S・ReNァァァァァツ………!!』
 化物が咆哮上げ、左手を祭壇に伸ばす。
 少女へその手が迫る次の瞬間―
 疾風のごとく、アルトセーレはフィオナの体を掴み、祭壇から転げ落ちた。
 その刹那、巨大な手が祭壇の床を壊し、
「お父さんやめて!!」
 娘であるフィオナの制止の声も化物には届かないのか、再び右手を大きく伸ばした。
「何ッ…!?」
 そして、その指差しが祭壇の聖母像へ辿り着いた瞬間、“麗しき女神”の姿が大きく歪に変形する。
 いや、融合しているのだ。その化物とこの島が―
「ふふふっ…、ふはははははっ!!ついに夢にまで見た!我が宿願が現実のものになった!!」
 高らかにスモークマンが宣言する。
 空間が、この施設が、この島が激しく揺れる。次々と見慣れていた光景が、変わっていく―
「お父さん!お母さん!」
「リューク!セレナ様!」
 もはや二人の叫びではそれを止めることはできない。天井が割れ、壁に亀裂が入る。そして、床に大きな亀裂が走り―

「おい!?これは
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