12.『現在(いま)/目覚め』

「よし、このままなら……!!」
 わずかながら勝機を確信する。だが、それを否定するように警告音がコクピットに鳴り響く。
「…!?」
 物々しいロックオン警告音に本能的に反応したイグニスが、操縦桿をわずかに倒しながら、視線を其方へ向けた―その瞬間だった。
「な!?イグニスッ!!」
 三つの小さな閃光が空を駆け巡り、ジュンの目の前で、それに襲われたファントムの左腕が弾け飛んだ。
「うわぁぁぁぁぁ………―!!」
 爆発を起こし、コントロールを失ったファントムは、施設建屋へと墜落し、建屋の崩落と共に沈黙した。
「イグニス!クソッ、増援かよ!」
 それを横目で見ながら、フォールン・ヴァルキュリアと大きく間合いを取って、ジュンは気づく。
 新たなる敵の襲来―いや、敵の本隊に。
『なるほど、リグシヴを倒しただけはあるな。まぁまぁの反射力だ』
 大型ヘリのローダー音と共に20…いや、それ以上の数のソルジット部隊が姿を現した。
 だが、先の攻撃はそれらによるものではない。
 その大型ヘリの下部に牽引される多脚のAC―それがこの部隊長であるスモークマンの愛機“グローリー・スター”のものだった。
「ヘッ…」
 ジュンは思いだした。この声を通して伝わる背筋の凍る殺意を。
 かつて陽だまりの街の決戦で、リグシヴ・ウェーバーを殺したあの声の主だった。
「ジュン・クロスフォードか…。流れの技術屋が、ここで何をしている?」
大型ヘリより切り離され、施設の建屋屋上へ着地したグローリー・スターは、その単眼で冷たく2体のACを見下ろした。
「先生!」
 歓喜の声を上げるフレアに、スモークマンは大きくため息をつき、“愚か者が!”と怒鳴りつけた。
「何の為にオーバード・ウェポンと例のシステムを組み込んだと思っている。お前はその程度か?」
「も、申し訳ありません!先生のお望み通り、邪魔する者はすぐに撃破して見せます!」
 震える声でスモークマンにそう答えるとフレアは、大きく深呼吸し、コクピットのコンソールにあるいくつかのボタンを叩いた。
「あれは、オーバード・ウェポン―」
 次の瞬間、ジュンの目の前でフォールン・ヴァルキュリアがその背と顔面を変形させ、左腕を噴き飛ばし、さらにその右腕が大きなグラインド・ブレードへと変形する。
 細身のダークブルーの機体が、瞬く間に6連チェーンソーを持つ獣へと変化した。
「お前ごときにこの形態を使いたくはなかったが―…、貴様たちを殺す…。先生の前で辱めた罪、その身をもって償ってもらう!!」
 OSからの警告音が鳴り響く中、彼女の体が変化した。まるでボディビルダーのごとくスーツを内側から押し上げる様に大きく両腕、両足が隆起し、顔面に血管が浮き出る。
 パイロットスーツに仕込まれた対G機構と投薬機による影響だ。さらに機体もタイプTLと同じように各部の冷却フィンが全開になり、そこから排出しきれぬ熱が蒸気となって噴き出した。
 もはや、そこに“ヴァルキュリア”の面影はどこにもない。ここにいるのは、獣へと堕ちた戦乙女だ。
「てめぇ…、その一連のシステム!どこで手に入れた!?」
 ジュンには目の前の光景に見覚えがあった。
 自分が追う、“あの男”。その男が駆るACも同じように、常軌を逸脱した変身をしたからだ。
「知りたいか?知りたいのならば、まずは彼女に勝つことだ。若造!」
 スモークマンがそう答えると同時に、弾丸のごとくフォールン・ヴァルキュリアは刃を構え突進してきた。
「チッ!」
 舌打ちし、唸る紅蓮の刃を機体と共にかわす。鋼鉄の装甲越しに熱気が伝わるほどである。

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まろやか投稿小説 Ver1.50