11.『過去/激突』


 サラリと背まである白銀の長い髪が風になびく。服を羽織ってなく、包帯のみのその半身が、アルトセーレに改めて自分が女性であることを意識させた。
 フラフラとよろけながら、力が入らぬ足で一歩、また、一歩と進む。
「ッ…!?」
 だが、思わず力が抜け、壁に寄りかかり倒れそうになった…その時―
 その少女がその体を支えた。
「フィオナ…様…?」
「アルト、お願い。私を、母さんの元へ連れて行って」
 体を支え、間近でアルトセーレを見つめるフィオナ。その眼は、何者にも揺るがせぬ強い決意が込められていた。
 アルトセーレにとって、それは初めて見る瞳だった。
 いや、この眼は二度目だ。
 彼女の強い思いの篭った瞳。それは、まぎれもなくあのリューク・ライゼスのものと同じだ。
「分かりました」
 アルトセーレは短く、しかし、強くそう答え、体に力を込めて立ち上がる。
 そして、フィオナに支えられ、医務室を出ようとする彼女に、レナは大きくため息をつく。
 振り返ったアルトセーレへ二つの黒い四角の塊が投げられた。
 ボールをキャッチするように、フィオナとアルトセーレがそれぞれ、それを掴む。
「…どうして、あなたも含め、リュークさんも、フィオナ様も…、頑固者はどうして先走るのでしょうか?」
 それは、自分が持ってきたリュークの形見である“アタッシュケース”であった。
「貴方の今の仲間が、わざわざ持ってきてくれたのですよ?」
 それは、鍵が壊れ、中が開けられない“ただの箱”である。
しかし、アルトセーレにはその“ケース”が、今この瞬間、自分に残された最後のチャンスのように思えた。
「行きましょう、アルトセーレ」
 その片方を持つフィオナに促され、アルトセーレはレナへ一礼した後、医務室を出た。
「…ふぅ」
 二人を見送った後、レナは小さく息をつく。
 レナは知っていた。あの黒い二つのケースが何であるか、を。
(…異端を喰らい、破る牙。異端を殺す白き獣)
 かつて島の管理棟。研究エリアでリュークはかつて自身が愛用していた兵器に何かをほどこしていた。その内容の一片を技術指南役として立ち会ったレナは知っていた。
 それは、今思えばこの島がこの状況になることを予期して行っていたものかもしれない。
 ふと、想いに更けていると現実に引き戻すかのように、手元の通信機がなった。セティアからだ。
『レナ、聞こえるから?ヴァンツァーシリーズ、全機出れるわ。貴方も準備して』
「了解しました、セティアさん」
 短く答え、レナも部屋を出る。
 向かうは船のドッグ。そこに既にアイドリング状態である異端の人型兵器“ヴァンツァーシリーズ”が操縦者の到着を待っていた。

11.『過去/激突』

13/05/23 10:00更新 / F.S.S.
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