送ることなく、フレアはその飛んできた方向を睨みつける。
そこには、両手の銃口からカゲロウを上げるACが2機。
それはジュンが駆るソルジット・タイプTLとイグニスが駆るファントムであった。
「やれやれ、骨が折れるぜ…」
複数のACを確認し、ジュンは思わず苦笑いしてしまった。
戦闘兵器はともかく、これだけの数のACを未だかつて経験したことがない。
正直な話、これは“死闘”になると予想できた。砂塵が晴れていく。
「イグニス、無理はするなよ。ここで犬死する必要はないんだ」
「…分かっているよ、ジュンさん。俺も自分の技量ぐらい見極めはできる」
ファントムに乗るイグニスは操縦桿を握る両手に力を込めた。
その手が小刻みに震えている。
恐ろしい。
それがイグニスの本音だ。リューク・ライゼスを名乗る者が、かつて所属していたという部隊。
(あのクラスが多々、目の前にいる。正攻法じゃ絶対に勝てない。ならば―)
セティアが用意した迎撃策。そして、最終手段。
「先生が言っていた陽だまりの街にいた傭兵どもか。小癪な真似を…、殺せ!!」
ブースト音。武器を構え、フォールン・ヴァルキュリアを中心とするAC隊が迫ってくる。
「行くぞ、イグニス!」
「了解!」
それを立ち向かうかのように、2機が飛び込んだ。
“アルトセーレ、お前は何の為に戦っている?”
リュークに助けられて数日後。
リューク・ライゼスはそう訊ねてきた。
ワタシは、敵地に居ながら、拘束されることもなく、彼とその彼が守るこの島の住人達に、まるで家族同然のように引き取られ、この島に滞在していた。
「ワタシは―」
その時のワタシは支離滅裂だった。表向き、彼らに従属する一方、もう一つは故郷であるあの部隊との連絡手段を探ろうと必死になっていた。
友軍は来ない。来るところか、別に侵攻部隊を送る気配すらない。
島にあったレーダー施設を使い、連絡をする。それを、リュークに見られた。
リュークは言った。
「それは、無駄なことだ」
彼は続けて言う。
「あいつらにとって…、いや、あの男にとって、俺たちはただの駒にすぎない。あの男は…、スモークマンはそういう男だ」
彼の表情が険しくなる。何が二人の間であったのだろうか?
それを知る由もなく、ワタシは投げかけられたその疑問に答えることもできず、ただ自分自身の目的を探る日々が始まった。
そして、その最中―あの別れの日がやってきたのだ。
「………」
ゆっくりとまるで朝目覚める様に、アルトセーレは目を覚ました。
天井を見て、はたりと思いだす。ここは、かつてリュークが所有していた輸送船の医務室だと。
「ワタシは…」
ふと額にやった右手が捲かれた包帯に触れる。それがフラッシュバックのように意識が途切れる直線の事を思い出させた。
「エリーゼ!」
思わず半身を起こす。と、全身に激しい激痛が走り、アルトセーレは悶えた。
上半身が包帯だらけ。左腕にギブスがはめられ、ガッチリと固定されていた。
「無理は駄目ですよ?その怪我、普通の人間なら、とっくに死んでますから」
淡々とそう話す冷淡な声がし、そちらへ視線を向けると声の主である幼い外見の少女がいた。
レナと皆から呼ばれる少女は、この島の衛生管理官である。
「始め会ったあの時も、そして、あの日も…。あなたという人は無茶ばかりをする」
「レナ、説教はあとで聞く。今は、管理棟へ向かわないと…」
身を裂くような激痛に、顔を歪ませながら、アルトセーレはベッドから降りた。
「セレナさんを…。奴らをから守らないと―」
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