11.『過去/激突』

、易々と人が扱えるものじゃない。ましてや、欲にまみれた人間たちがそれを手にしてはいけない」
 聞きなれぬ声に、一同が振り返った。
 そこには見慣れぬ長身の女性が一人。かつての国家の士官着だろうか、気品ある白きロングコートを着て、片目は機械の義眼、ベレー棒を被っていた。
「セティアさん!?体の方は大丈夫なのですか!?」
 フィオナがその者の名を呼び、慌てて駆け寄り、体を支える。
「大丈夫なのか?」
 思わずジュンも訊ねた。
 その者は杖をついていた。まるで病人のようにフラフラし、その肌はあまり血の気を帯びていなくて、白い。
「機械との接続(リンク)。その代償に、身体能力は低下していく…」
 それを見たイグニスは思わずそうつぶやいた。彼は知っていた。
「Δ“トリニティ”システムの開発実験の過程の産物。そうなんだろう…?」
 それがこの島にある全てだと。そして、今周りに居る“彼女ら”、だと。
「イグニスと言ったか?そう、お前の想像通りだ」
 フィオナに体を支えられ、セティアはイグニスの前に進み出た。
「かつてのバカげた戦争の果て。戦争と言う実験場に狂気を放りこんだ挙句の末路がこの島だ」
 やや呆れたような顔でセティアは告げる。
「そして、今。この島の惨劇が、この世界に引きずり出されようとしている。そんなことは絶対に阻止しなければならない」
 その弱弱しい女の体からは想像できない意思の籠った力強い声。それだけここの技術は危険であるということだろうか。
「どうやって奴らを足止めする?意気込みや気合いだけで勝てる相手じゃないぜ」
 ジュンの問いかけにセティアは“勝つのではない”と答え、ノルンを見た。
 目だけの合図で、セティアのソレを察したのか、ノルンは近くのコンソールパネルをいくつか操作すると、彼らの頭上のモニターに電源が入り、島の全体図が記された。
 原生林を多く含んだ亜熱帯系の島。北側にかつての港。西側に浜辺。東側に今回ベルセフォネ軍が上陸した浅瀬地帯。そして、そこから島の中心を司る山岳を挟み南側にイグニスら一行が停泊している隠し港がある。
「この島のもっとも重要な管理棟は、この山脈の頂上、カルデラにある。あそこは死火山を改造した施設だ」
 島の半分の面積を取る楕円状のソレ。その麓に向かい、東から進軍する赤い斑点が複数表示される。それがベルセフォネ軍であることは明白だった。
「もっとも敵が集中するこのポイントで仕掛ける」
 そこは、密林を抜け、頂上のカルデラへ向かう山岳路の途中にある渓谷だった。
「ここに廃棄されたレーダー観測施設がある。それを挟むように、左右の崖へトラップを仕掛けた」
 セティアの説明通り、道をふさぐかのように建てられたその巨大な施設は陸上兵器主体の相手の足を鈍らせるには打ってつけだった。
「そして、敵機の動きに悪影響を与えるジャマーを複数配置した。これで敵を足止めし、あなたたちのACと私たちの“ヴァンツァーシリーズ”で戦う」
 初めて聞く単語にジュンは“何だ?ソレ”と目で聞き返した。
「君達がここへ来る前、フィオナが乗っていた人型の機体のことだ。君達が使うACとは違う規格で作られている」
「それぞれ戦術スタイルで特機となっていて、私には特殊型、ティオには近接特化と、専用機があります」
 セティアの説明を補完するように、ノルンがそう告げながら後ろ髪をかきわけ、首元をジュンらに見せた。
「なんとまぁ…。ダイレクトな操縦方法だこと…」
 それを見たジュンは思わず苦笑いを浮かべながら、そうつぶやいた。
「セティアさん。それらを駆使しても、あ
[2]前へ|[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6]
[7]TOP [9]目次

まろやか投稿小説 Ver1.50