ACX二次創作小説第二話−序説

化け物。それには、人間用を改造した程度の武器では致命的なダメージを与えることはできない。弾は弾かれ、爆発は精々擦り傷程度だ。
 その装甲と鋭利な口がこれまで多くの者の命を狩ってきたのだろう。
“イグニスは駄目かもしれない”
薄ら脳裏にそんな思いが浮かび、リュークは弾切れになったライフルを投げ捨てて、眼前に見える出口へと駆けこむ−
 外は、激しく荒れていた。空も雨を含んで突風が吹き荒れ、視界が悪い。
雷鳴が轟き、地には捲きあがった粉塵と霧で、暗闇の中にいるようだ。
(まずいな…)
 外も結局中と変わりはなかった。
周囲を囲んでいた壁がなくなり、一際大きくムカデが跳躍する。
 そして、その巨体がリュークを飛び越え、彼の目の前に立ちはだかった。
「やれやれ、どうしたものか…」
 半端あきらめにも似たため息をつき、リュークは目の前の化け物を睨みつける。武器はもはや手持ちのハンドガンのみ。
 しかし、この相手には、ダメージにはならないだろう。せいぜい表面の塗装に傷をつけるぐらいだ。
 まさに絶体絶命と言えば、今この瞬間である―
 ムカデの牙が大きく開く。リュークを喰らおうと、体が収縮を始める。
 リュークも身構え、覚悟を決める。
―だが、両者の行動は突然の地鳴りと共に中断された。
 地鳴りはやがて激しい震動へと変わり、その原因が地表へと近付いてくるのを両者は感じ取った。少し離れた場所で、地面が大きく隆起し、
「―ァァァァァァァァァァァァッッっ…!!」
 その原因はイグニスの咆哮と共に地表へと飛び出した。
「イグニス!?」
 リュークの眼前で、イグニスが駆るACが鋼鉄ムカデの体に、激しいニーキックを打ち込む。
 ブーストチャージ。質量と慣性をもって、相手へ強烈な打撃を加える荒業(テクニック)だ。
 大きな火花ときしみ音を立て、鋼鉄ムカデが怯む。間髪いれず、ACの右手が伸びて機械ムカデの喉元を掴み、今度は重力をもって、地面へと叩きつける。
 そして、馬乗りになり、右肩のハンガーユニットからULB−13/H式レーザーブレードを手に取り、それを鋼鉄ムカデの顔面へ突き立てた。
 ビクッと機械ムカデの体が跳躍し、小爆発。だらしなく周囲へオイルと金属をまき散らした。
『熱源、急速接近』
「ッ!?」
 搭載されたCOMの注意喚起で、イグニスは機体を振りかえらせる。
『危険と判断。システムインストール、ステップ35〜115までをスキップ』
 眼前にリュークを襲っていた機械ムカデが牙を向き、迫る−
機械ムカデの頭脳に搭載されたAIが、仲間がやられたことで、最優先ターゲットをACに切り替えたのだ。
『コントロール、システム“Atropos”へ強制移行を開始』
「えっ…?!」
 突然のCOMによる宣言と共に、コントロールスティックを握るイグニスの両手は、腕ごと機体に固定され、さらにシートベルトが捲きあげられて、彼の体はシートへ張り付けになった。
『デバイス内蔵作業開始』
 そして、刹那イグニスの後頭部に熱く、感電したかのような感覚が迸り、彼は声を上げることもなく、気を失った−
 そして、タイプ0のカメラアイのカラーがそれまでのグリーンからレッドへ変わり、それと同時に背に一瞬爆発を起こし、その場から急速後退する。
それを追いかけるように地を蹴り、口の鋭利な歯をむき出し、機械ムカデがタイプ0に迫る―
再び眼前に迫る敵に、タイプ0は左のハンガーユニットに搭載されていたガトリングガンKO−5K3 LYCAENIDを手に取り、銃身を分析(スキャン)した相手のウィークポイントへ突き付けた。

[2]前へ|[3]次へ
[7]TOP

まろやか投稿小説 Ver1.50