寄り、嘔吐した。
二人がキャットウォークから見下ろした光景。それは、精肉工場よろしく機械で人を解体していた工場だった−
「ハァ…、はぁ…、何なんだよ、此処…」
口元をぬぐい、イグニスは工場の天井を見上げ、言葉を失った−
「分からん…。かつての時代に、こういう場所があったとは−」
やや遅れて、リュークも天井を見上げ、しゃべるのをやめた。
二人の目の前、天井の柱の一つが“ギギギ…”と、音を立てて、別の柱を中心に螺旋を描き出した。
−違う。ソレは柱ではない。
化け物だった。鋼鉄でできた巨大ムカデ。
「アレか…、ここに侵入した者たちをここに連れてきて、挽肉にしているのは−」
ライフルのサブウェポンにつけているグレネードのロックを解除する。
「マ、マジかよ…!?あ、あ、あんなの…初めて見た−」
震えあがるイグニスの隣でリュークは冷静にライフルを構える。どこから現れたのか、もう一匹。そのムカデが現れ、奇怪なうなり声をあげている。
「通路を戻れ!イグニス!!」
リュークが叫ぶ。
刹那の閃光。
踊り飛ぶ薬莢。
そして、爆発。
一度にそれらが起こった後、イグニスとリュークは来た道を全力で駆けて行った−
「クソォッ!!こんなことになるなんて!言っておくが、俺も知らなかったんだからな!!」
慌てふためきながら、イグニスは叫ぶ。
「そんなことは分かっている!今は生きて帰ることだけを考えろ!とにかく走れ!」
走りながらリュークは半身振り返って後ろを睨みつけた。
対AC用のグレネードを食らいながらもあのムカデは追いかけてくる。
ACが所有する火器レベルの力が必要なのは明確だった。
リュークがそう判断した刹那、通路の床に亀裂が走り、大きく隆起した。
「−ッ!?」
「えっ!?わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァaaaa……−!!」
二人を分断するかのように床が割れ、さらに一体の機械ムカデが飛び出した。
「イグニス!!」
そして、それと入れ替わるかのように、地を失ったイグニスは、リュークの眼前で、奈落へ落ちて行った…
ボヤけた風景。
まるで無音のレトロ映画のような風景。
白衣を着た誰かと誰かが言い争いをしている。それを少し離れて見る同じ格好の者たち。
『“Δプロジェクト”は、完成した…!プロジェクトは、発案者である僕のモノだ…!!“』
自分と同じ年頃の、ある者の口がそう叫んでいる−
「………」
イグニスが目覚めると、そこは先ほどとは違う空間だった。
だいぶ高い所から落ちたはずなのに、無事なのはバックと自分の腰に繋いでいたベルトがフックとなって、偶然壊れた配管に引っ掛かっていたからだ。
「ここは…?」
上を視る。はるか遠くに先落ちた穴がある。先のムカデは、恐らくリュークを追っていったのだろう。こちらへはまったく気付かなかったようだ。
下を見ると一面薄らと水が張った地面が見えた。
イグニスは右手の袖から手品のように小さなナイフを取り出すと、ベルトを切り落とし、水路らしき地面へと着地した。
「すげぇ…。地図には載っていなかった場所だ…」
恐らくこれまで誰も踏み入れることがなかったのだろう。そこは、かつての地下水路だった。
ACが簡単に通れるくらいの広さはあろうか、かなり広い空間がイグニスの前後に続いている。
そして、透き通った水の底、薄らと砂が堆積し、道となって奥へと続いていた。
そこは先と同じ闇が広がっている。
だが、先とは違い不思議と恐怖は感じなかった。
「行ってみるか…」
何かに導かれるかのように、イグニスはその天然の水路を奥
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