ACX二次創作小説第二話−序説

異常はない。
 既に外回りのトラップや防衛機構類は、ミグラントが持ち込んだと思しきACと共に破壊されていた。
 大きな施設は、とぐろを巻く空も相まって、まるで悪魔の城のように見える。その麓の大きな資搬入用と思しき自動ドアは片方が吹き飛ばされ、開いていた。
 ここから大体100メートルくらいの距離がある。
「私が先行する。安全が確認できたら、合図する。離れずについてこい」
 リュークの指示にイグニスは、無言で頷いた。
 それを見て、リュークはライフルのロックを解錠し、身を低くして、施設内に点在する数々の残骸の一つに向かって駆けだした。
 そして、一つの残骸に背をつけ周囲を確認すると、再び別の残骸へ。そして、また次へ−
 それを繰り返し、5分も経たぬ内に彼は正面入り口まで辿りついた。
 息を殺し、周囲の安全確認。異常はない。
 トラップの気配も、防衛装置の動作の気配もない。
 手で外壁付近にいるイグニスに“来い”と指示を出す。
 彼もまたリュークが通ってきたルートを辿って、正面入り口までやってきた。
「…ふぅ。何だか、緊張するぜ」
 そして、安堵のため息。
「休んでいる暇はない。行くぞ−」
 施設の入り口から中を覗き込む。電源を喪失しているのか、通路の奥は無限の闇が広がっている。
(まるで地獄への入り口だな)
 リュークは、サーマルゴーグルを装着し、ライフルのレーザーポインタを作動させ、中へと踏み込んだ。
「この先はしばらく道なりだ。この奥に例のエリアへと続く工房らしき空間がある」
 少し距離を置いて、イグニスはPCの画面を見ながらリュークの後をついてゆく。
 程なく光が届かぬ通路の奥へ、二人の姿が消える…。
それと同時に空は低く垂れこめ、雨粒と稲妻を含んだ雲が空を支配した−
 刹那、含んでいた高圧電流が稲妻となり、宙を激しく迸る。
 一連の光景を…、あるモノはずっと視ていた。
 機械の瞳の奥に、薄らと紅い光を灯し、ただ“視ていた”
 そして、精巧に造られた頭脳が認識し、指令を出す。
“侵入者を確認。排除せよ”と−

 一体どれだけ歩いたのだろう。今のところ、何もなく二人は順調に奥へ進んでいる。
ただし、暗い通路は奥に行けば行くほど、湿度が多くなり、また鉄分の臭いとカビの臭いが強くなっていった。
(ある意味、外の方が良いかもしれない…)
 リュークは、チラリとイグニスの方を見た。予想通り、イグニスは鼻を突くこの臭いに、気分が悪そうな顔をしている。
「大丈夫か?」
 小声で訊ねると、“大丈夫”とイグニスは親指立て、サインを造って返した。
 それを確認し、リュークは壁伝いに奥へ進む。
 先から兵器の残骸や亡骸の数が増えている。いずれも何かに襲われ、まるで食いちぎられたかのような様相で二人の恐怖を煽る。
元々の暗さも相まってか、本能がこれ以上進むな、と警告している。
 だが、リュークの傭兵としての理性がソレを黙らせ、体をコントロールしている。
 対照的にイグニスは、予想以上の場所に幻滅していた。
 今までやってきた施設探索の中でワースト1位かもしれない。
「見えてきたぞ、最深部だ」
 何もない通路の先、おぼろげに茶色い光が見えてきた。
 ペースはそのままに、広い空間の入り口へ辿り着く。
 そこはキャットウォークになっていた。
 何かの製造工場。薄らと必要最低限に照らされた光がそこで造られていたモノを二人に露わにする。
「これは…!?」
 リュークは堪らず声を上げた。
「ウグッ…」
 あまりの悪臭と凄惨な光景に、イグニスは堪らずリュークから離れ、壁際に駆け
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まろやか投稿小説 Ver1.50