士の言葉を聞いて、リュークは軽く敬礼のようなしぐさをし、車を発進させた。
眼前に見えるは、地平線の向こうまで続く荒野と道路だ。
目的地は、ここより約10キロ行った先にある−
目的地に着くころ。太陽は南の空を掠め、西の空へと移る頃だった。
先ほどから見る見る雲行きが怪しい。
改めて世界は荒廃しきっているとイグニスは思う。
リュークに渡されたフェイスマスクを装着し、ゴーグル形状に開けられたガラスレンズを通して視る世界は、荒野は荒野でも格別荒れていた。
土は腐り、水は七色にギラつきながら、片栗粉が混じったかのようにドロドロしている。
周囲は、ガスマスクをつけていても鼻を突くような悪臭が立ち込め、時折その臭いが突風となって吹き荒れる。
イグニスとリュークは、目的地全体が見渡せる丘の上に立っていた。
「かつての工場があったと言われる所か…。ここには何もないと聞いているが…」
“ここに何かあるのか?”と、隣で特殊部隊のような格好をしたリュークが訊いてくる。複数の火器と電子装備を身に着けた彼は、さながらワンマンアーミーであった。
「そもそも俺がここに来た理由は、一年前この街に住む人物から依頼をもらったことがきっかけなんだ。“ここの工場の奥に隠されたものを探してほしい”と。結局、その依頼主はその依頼文を一方的に送りつけただけで、その後“連絡は一切なし”、だけどさ…」
その場にしゃがみこみ、バックから採掘用のPCを取り出して、起動させる。
イグニスは、いくつかのキーを叩き、その当時依頼文と共に預かった工場の見取り図を画面に展開し、リュークへ見せた。
「ほぅ…。これは、また−」
画面を覗き見たリュークの顔つきが険しくなる。
画面に表示されたのは、此処が昔何らかの研究施設だったことを示す情報の数々だった。
最深部の“未確認エリア”と呼ばれる空間がゴール地点ではあるが、それまでの道のりは険しい。
その情報は、リュークも噂では聞いていた。郊外に存在する此処は、自分が街に来た当時から有名な場所だった。
何人かのミグラントがその最深部に眠るとされる“資源”を狙って侵入を試み、そして、誰一人帰ってきた者はいない。
「イグニス、私を試しているのか?」
視線をモニターからイグニスへやる。
「そうさ。俺をこの最深部に連れて行ってほしい。そうすれば俺は、アンタを信用するし、アンタからの依頼も受ける。ここ一帯の代物は高値になるって聞くし、アンタへの報酬代わりにもなる」
口元に薄ら不敵な笑みを浮かべながら、イグニスはそう告げた。
わずかな沈黙の後、
「…分かった。行こう」
リュークは持ってきたアサルトライフルを肩に担ぎ、立ち上がる。
「こういう所は、身動きしやすい格好で手早くやるのがセオリーだ」
そう言って、腰のホルダーから一丁の銃を抜き取り、イグニスの前に差し出した。
「ただし、こちらも一つ約束してくれ。自分の身は、自分で守ってくれ」
「そういうと思ったよ」
差し出された銃を受け取り、改めて見る。大型動物も簡単に倒せそうな、やや大柄のハンドガンだ。
「行くぞ」
「あぁ、よろしく頼むぜ」
リュークの掛け声と共に、二人は荒れた丘を駆け降りた。
雲行きは益々怪しくなっていく。出来ることならば天候が崩れる前に此処から脱出を図りたいところだ。
(昔を思い出すな…)
薄ら過去の事を思い出して、リュークは不思議な気持ちになった。
(こうして誰かと仕事をするのが久々だから−?)
そして、手早く外壁に背を着け、崩れた壁面から中の様子を見てみる。
特に
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