ACX二次創作小説第二話−序説

ているな…。使えるのか?」
 遠い過去に消失と思っていた品物だけに、イグニスは思わず笑ってしまった。
「この街の中とその近辺でなら、どこにいても使えるようにしている」
 イグニスとは対照的に、表情一つ変えず淡々とリュークは説明する。
「連絡するときは、中に入っているメモリーを使って呼び出してくれ」
 電話を受け取り、イグニスは車を降りた。
「何でそんなに親切にしてくれるんだ?まだ出会って間もないのに」
「それだけ貴方が必要だ、ということだ」
 そんなやりとりをしていると、聖堂の中から人の気配がしてきた。
「………」
 チラリとイグニスが横目で見ると、窓枠からシスターらしき影がこちらを見ている。
「そろそろ退散しよう。長居は危険だからな。連絡を待っているぞ」
 そう一方的に告げて、リュークは車を発進させた。
「………」
 表通りへと走り去っていく車を見送り、イグニスはジーンズのポケットへ渡された電話を突っ込むと、聖堂の正面ドアへと向かった。
 ようやくの帰宅。ちょっとした買い物のつもりが、すっかり夜遅くになってしまっていた。
(シスター、怒るだろうなぁ…)
 ゆっくり木製のドアを開けると、中は静寂に包まれていた。
 これはいつものことだ。ステンドグラスの天窓から差し込む光が薄らと照らす堂内の奥、食堂へと向かう。
 これもいつものこと。食堂は数人が食事を共にするには、ちょうどいい大きさだ。壁にかけられた複数のランタンの優しい炎が、心にちょっとした癒しを与えてくれる。
「お帰りなさい」
 食堂へと入ったイグニスを、シスター・リトナが出迎えた。
「なんだか、凄く疲れているわね」
「まぁ、色々あって…」
 シスター・リトナは、気を使っているのか、イグニスに“なぜ遅くなったのか”と聞かなかった。
 聞かずとも分かる、ということだろうか?
 ただ、疲れた彼を気遣い、すっかり冷めてしまった料理を共に食し、楽しげにイグニスに1年前から今日までの話をしてくる。
 “一年前、身も心もボロボロでここに流れついたこと”
 “シスターの看護のおかげで体調を取り戻せたこと”
 “初めてシスターと呼んでくれたこと”
 次々と出てくるシスターの話を聞きながら、イグニスは思っていた。
“この人とももうじきお別れだな”と−
(こんな人が肉親で居たら、俺の人生もっと変わっていたのにな)
 そう心の中で嘆いて、彼は最後になるかもしれない彼女の手作りの料理を胃へとかきこんだ。

 この時期、“陽だまりの街”の日の出は早い。
 午前5時より少し前には、東の空へ太陽が昇り始める。
 リュークは、愛用の戦闘服に身を包み、さらにそれを隠すブルゾンを着て、愛用のRV車の中にいた。
 後部座席が取り外され、変わりに二つの大きなボストンバックが置かれている。
 中身はどちらもこれから使うであろう仕事用具だ。
 ふと、右腕につけた腕時計を見る。時計の針は、約束の時刻を射していた。
 車を発進させ、リュークはイグニスとの合流地点へと向かった。
 これは、リュークからの提案だ。
 数日前よりこの街を騒がす例の異教徒共が、イグニスを探しているという情報を掴んでいた。
 そして、昨日。実際に行動へ出た。
 恐らく彼らはまだ彼を狙っているに違いない−というのが、リュークの読みだ。
(奴らがなぜ彼を狙うのか、その理由はまだ分からないが−)
 行政区から南へ下り、住宅街の境にある交差路。そこを右へ曲がると、正面に自警団の建屋が見えてくる。
 そこが待ち合わせのポイントだ。この地区は、遠くからの移民が多く、また、自治意識
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まろやか投稿小説 Ver1.50