第一羽 羽ばたき

空は雲が覆い、正午を過ぎたばかりだと言うのに夕方のような暗さと寂しさが辺りを包んでいた。
建物と言う建物はほとんどが倒壊している。
ここはかつて、経済的にも技術的にも大きく発展していた都市なのだが、今やその影はなく、人の影さえも見当たらない広大な廃墟と化していた。
企業による大きな土地改革、そして軍備拡大。
それに猛反発し抵抗したのが反企業組織のN.O.R.だった。
N.O.R.の実質的主導者のダンテを筆頭としたレイヴン達が戦争の道具として使われるのを良しとせず、彼の下に多くのレイヴン達が集った。
彼らは自由を求めN.O.R.と共に企業と戦争を行った。
そして1年半の戦争を終えてN.O.R.が勝利し企業は撤退。
一時の安らぎを手にいれた。
「嫌な思い出だな・・・。」
ショートに切った紅い髪を掻きながら青年がぼそっと呟いた。
「アッシュ、任務中なのに別なこと考えられる余裕があんたにあるわけ?」
「え?俺何か喋ってたか、クレハ?」
クレハと呼ばれた女性は溜め息混じりに言った。
「はぁ、どうせ1年半前のことでしょ?」
「失礼ですが、あなたには関係のない話ですクレハ。しかし彼には十分関係があるのです。もちろん私も・・・。」
アッシュが言いよどんでいるとオペレーターのオルガが話に割って入ってきた。いつもは高圧的なのだがこの話になると一歩引くような口調になる。
「いつもこうなら良いんだけど。」
黙っていれば間違いなく美人であろうオルガは口を開ければ毒を吐く。
そのくせ仕事はなんでもそつなくこなすから、口八丁手八丁と質が悪い。
だから、男運悪いんだとは口が割けても言えない。
「オルガ・・・?わかったわよ。」
半ば強引に納得させられたクレハは任務に集中すると言って引っ込んだ。
「アッシュ、あなたも任務に集中すべきです。哨戒任務とはいえ、いつ敵が現れてもおかしくないエリアなのですから。」
オルガは注意と言うよりそうして欲しいと願うように言った。
「あぁ。わかってる。」
「では、続行してください。あなた方には今は任せられることがないので。それと、あまり心の声を漏らさない方がよろしいかと。」
どうやら、さっきのも聞かれていたらしい。
最後はいつも通りのオルガに戻っていた。
1年半前はオルガはN.O.R.に所属していなかった。
そして俺も・・・。


―2年前。企業本部ブリーフィングルーム。

紅い長髪を尻尾みたいに揺らしながら廊下を走る青年。
真っ黒のパイロットスーツに一層際立って目立つ紅い髪。
「やべっ!急がないと遅れちまう!」
観音開きに開く大きなドアを勢いよく開けた。
そこには若手からベテランの多くのレイヴンとそのレイヴン達の異様な緊張で満たされていた。
一気に視線が集まるがすぐに興味を失ったのか足元を見つめたり、落ち着きなく辺りを見回したりタバコを吸ったりとそれぞれがそれぞれのことをしはじめた。
「あなたですか。アッシュというとろいレイヴンは。」
高圧的な口調で冷静にこちらを見据え話す女性。
周りのレイヴンは苦笑していた。
「呆けていないで、あなたの席・・・、Aエリアの席に座ってください。」
黒のスーツに紫のネクタイを締め高貴さが漂う。
薄い紫の髪を後ろで結い間違いなく美人であろうその女性はとてつもなく口が悪かった。
咳払いをし、仕切り直しをするかのように企業の代表取締役の男が話はじめた。
『これから作戦の概要を説明する。』

俺たちに回ってきた依頼はN.O.R.と言う反企業組織、レジスタンスの無力化だった。
企業はその過激な抵抗を皮肉ってノラと呼んでいる。

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まろやか投稿小説 Ver1.50