前編

この場所にあるのは、戦争の匂いがするものばっかりだ。
というのも、此処は弾薬庫とも言うべき場所で砲弾や銃弾などが置かれている。
この匂いが好きな人もいるらしいが、僕はあんまり好きな匂いじゃない。
あーあ、同じ人間同士なのに何で争わなきゃいけないんだろうか。
ときどきそう考えてしまうことがある。
ともかく、僕は今、ミグラントから仕入れた弾薬のチェックをしている最中だ。
薄暗い中、届いた弾薬の数が正しいかどうか、リストと照らし合わせて確認している。
えーっと、これはパイルの杭だったかなー。
勿論、言うまでも無くパイルを使うのは杏子さんだけだ。

「にゃー。」

えーっと、にー、よん、ろく、はち・・・ん?
唐突に動物の鳴き声の様な物が聞こえた。
この鳴き声は猫だろうか弾薬庫は厳重に管理されているはずなのに猫が入り込むなんて有りうるのだろうか。
入り込むとすれば、搬入した時に弾薬に紛れ込んだと考えれば良いのだろうか。
僕はリストの書かれた紙を砲弾の置かれている棚に置いて数えるのをやめ、鳴き声の聞こえた方に歩いて行った。

「にゃーん。」

再び鳴き声が聞こえてくる。
暗い中に閉じ込められて寂しかったのだろうか・・・
自分を呼んでいる様なそんな感じに聞こえる。
この弾薬の後ろだろうか、僕は四つん這いになって下の方に置かれている弾薬の方を確認した。
暗くてよく見えないが弾薬の後ろに蠢く者がある。
僕はゆっくりと両手を伸ばして、此方に引き寄せようとした。

「痛っ!?」

黒い存在に触れようとした瞬間に感じたのは痛みだ。
どうやら引掻かれてしまったようだ。
僕は反射的に手を元に戻して痛みを感じた部分を見た。
左手の中指の腹にスーッと鋭いもので切られた様な傷が指先に出来ており、そこから血が軽くにじみ出ている。

「大丈夫だよ。良い子だからこっちにおいで。」

僕は優しげな口調で言葉を言いながら、先ほどよりもゆっくりと両手を伸ばして、蠢いているものを刺激しないように手を伸ばした。
今度は引掻かれずにもふもふとした感触に触れることができた。
僕の言葉が通じたのだろうか?
そんな事はどうでもいいけども、僕は引き寄せるように手を元に戻した。

「もう、大丈夫だよ。」

何だか引きずる様な感じで引き寄せてしまったけども、こんな狭い所にいるから仕方が無い。
多少心の中で罪悪感を覚えつつも、出てきた存在を抱きかかえながら微笑みかけた。
どうやら、中に潜んでいたのは黒猫で何だか、元気がなさそうな感じである。
そういえば前に弾薬庫が開けられたのは何時だっけ、その時から居るとすると大変なことだ。
黒猫を抱えあげながらゆっくりと立ち上がった。

「えーっと、お腹がすいてるのかな?」
「にゃーん。」

僕は抱えあげた何だか元気がなさそうな黒猫に対して首を傾げながら言葉を言った。
猫は何かを訴えかけるように鳴き声をあげた。
えーっと、食べ物を上げたいのもやまやまなんだけど、皆が許可をくれるかどうかも分からない。
リーダーやなべさんは分からないが、兄さんには絶対、反対されるような気がする。
そしてロウケンさんや杏子さんは何だか手荒に扱いそうだ。
やっぱり、隠れて飼うしかないかなぁ・・・。

「うーんと・・・しかたないなー。」

僕は色々考えたけども、そういう結論にたどり着くを得なかった。
そして僕は猫を抱えながらリストを置いた場所に向かって行った。
嘘をつくことになるが、全部、数通り有ったと報告すればいいだろうか。
確か、僕と兄さんの部屋の隣に殆ど使われていない部屋があったはずだ。
とりあ
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まろやか投稿小説 Ver1.50