「良かったぁ、間に合ったー」
近道を無事(?)に抜けた後、あかり達はダッシュで一気に水白高まで全力疾走。残り僅かな時間ながらも間に合ったのである。
ようやく空が白んできたのか、辺りが徐々に明るくなっていく。
「はぁーっ、疲れたあ・・・」
息を切らしながら、あかりは水白高の正門を見つめる。
これからの学園生活を考えると、今の疲れが何も無かったかのように何処かへ飛んでいき、活力が心の底から湧き上がってくる。
人間とは不思議なものだ。
「で、____弘樹起きた?」
・・・気絶していた弘樹は目を覚ます気配が無かったため、明彦が面倒くさそうに担いで走ってきた。
「うおーい弘樹ー、着いたぜ〜」
道端に弘樹を下ろし、明彦はだるそうに肩をコキコキと鳴らしていた。
・・・高校生とはいえ男一人を肩で担いで走り回り、ただの準備運動程度の疲れしか見せていない彼の筋力は、本当に驚嘆するほど凄いものであった。
「ひろぽーん、寝たフリはダメだよー、もいっぱつ蹴り入れちゃうよー」
「いや、由佳。それは待て。目を覚ました後にもう一度眠りにつくハメになるから」
「もう、しょうがないわね・・・二人とも、ちょっとどいて」
橘兄妹に任せていたらどうなるかわかったものではない、あかりは自分で弘樹を起こす事にした。
「さっきから呼びかけてるんだけど、全然反応無いよね〜。・・・やりすぎちゃったかも? てへっ♪(はぁと」
「お前は『てへっ』の後ろに はぁと をつければ何でも許されると思っとんのか」
「でもでもあかりん、どうやってひろぽん起こすの?」
「いいから、見てなさい。簡単に起こしてあげる」
そう言うとあかりは身を屈め、弘樹の耳元に近づいた。
吐息が届きそうな距離で、彼女はニコリと微笑む。
「わお、あかりん大胆!もしかしてオトナな起こし方しちゃうの!?」
「もし弘樹が起きてたら卒倒するぞ、それ」
そしてあかりは小さく呟いた。
「弘樹、起きないと・・・・耳引っ張るわよ」
ガバッ!!
「ひぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいッッ!!!」
本当に一発で起きた。
ただし、この上ない恐怖に引きつった顔で。
「うわぁ・・・・マジで起こしやがった」
「あかりん・・・ひろぽんに、何かしたの?」
期待を裏切るどころか呆れかえった橘兄妹に、あかりはニコニコと微笑み返した。
「べっつに〜♪ いつもの事よ」
その隣では、まるでトラウマをえぐられたように弘樹が青ざめている。
「・・・あ、あかり、俺何も悪い事してないよね!?ちょっとぐっすり寝てただけなんだよね!?耳が、耳が、耳がーー!!」
「あかりん・・・ひろぽんをいっつもこんな風に扱ってるの?」
「弘樹が寝坊しそうな時とかこうやって起こしに行くの。新聞配達の無い日はいっつも起きないんだもん。もし起きなかったら耳引っ張って、それでもダメならほっぺぎゅーってするのよ♪」
「うぁああああああああああああああッ!!」
ほっぺぎゅーの単語を聞いて隣で絶叫する弘樹。何故だろうか、今の彼は妙に不憫な子に見えてしょうがなかった。
「弘樹のヤツ可哀想になぁ・・・ほっぺちゅーだったら最高だったろうに」
「あかりんに限ってそれは無いねー。それはそれでビックリして跳ね起きそうだけど」
何も知らない人間ががこの状況を見たら、さぞ微笑ましい姿に見えただろう。
しかし橘兄妹には何となく、弘樹のトラウマの根源の察しがついてしまった。
「ぜぇっ、ぜぇっ、・・・・・・あれ? 俺、今まで何を・・・・」
「ようやくお目覚め弘樹?遅刻寸前だっ
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