第二話「実地研修」

 大型のトラックが二台、道路を走っていた。
 目的地は街の離れにある工場。
 整備の行き届いていない道路は、時折トラックに不快な揺れを起こさせていた。
 その揺れに顔をしかめながら、カイト達はACの操縦席の中にいる。
 カイトは操縦席の中で、これから行う実地研修の事を考えていた。
 考えていたとは言っても、その思考は纏まりが無く、ただ頭の中を漂うだけである。
 そう、彼は緊張していたのだ。
 これがただのフリーで受けた依頼なら、彼はここまで緊張していなかっただろう。
 カイトはこれまで僚機を雇っての戦闘というものをした事が無い。
 まして会ってまだ数時間の人間と、連携を取る事が出来るのだろうか?
 その上、カイトはこの小隊の指揮を任されていた。



「カイト、とりあえずお前が小隊の指揮を執れ」
 さらっと言ったリラの一言に、カイトは驚いた。
「えぇっ!? 何で俺が……」
「私の勘だ。まあ、何事も経験だ。文句はやってから言え」
 話を打ち切ろうとするリラに、カイトは反論を試みる。
「いや、でも、もっと他に適任な人がいるんじゃ……」
「私もカイトが指揮官で良いわよ」
「僕もです」
「……」



 そんなやり取りがあり、エルクやレインも異議を唱えなかった(ヒスイだけは何か言いたげな目付きをしていたが)ため、なし崩し的に決まってしまったのだった。
 自分の指揮が小隊を動かす。
 その重責を感じたカイトは、今更ながらプレッシャーに押し潰されそうになっていた。
 思わず溜息と共に呟く。
「絶対無理があるよな……。俺が指揮なんて……」
「そんな事はありませんよ」
 優しげな声が否定する。
 その声にカイトは、前のハンガーに固定されているACを見た。
 黒と紫の二色で塗装されているそれは、エルクのAC『ブラックハウンド』だった。
 四脚型脚部を装備したブラックハウンドは、右腕にマシンガン、左腕にショットガン、右肩には軽量のレーザーキャノンを装備した、火力と機動性に特化した機体だ。
「そうかな? 正直言って、俺にはエルク達に上手く指示出来る自信が無いよ……」
「初めから上手くやる必要なんてありませんよ。少しずつ経験を積んでいけば良いんですから……」
 そんな二人の会話に、レインとヒスイが割り込んできた。
「そうそう。隊長さんも言ってたでしょ? 『何事も経験だ』って……」
「隊長が決めた事だから、私はそれに従おう。足を引っ張らなければ、それで良い……」
 どうやらカイトが緊張していると思い、和らげようとしてくれたらしい。
 ヒスイの言葉はどうか知らないが……。
 ともあれ、そんな仲間の気持ちに、カイトは嬉しくなった。
 途端に、気持ちが落ち着いていく。
「……そうだな。エルク達の言うとおりだな。やれるだけやってみるか!」
「そうそう! その意気、その意気!」
 レインが明るい声で頷く。
 その時、トラックの揺れが止まり、聞き慣れぬ声の通信が入った。
「皆さん聞こえますか? 目的地に到着しましたので、これより実地研修を開始します」
 若い真面目そうな女の声だ。
「えーっと、君は?」
 カイトが通信の相手に質問する。
「あっ、申し遅れました。私、レイヴンズホープの専属オペレーターを務めている、マリー=アンダーソンです。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。マリー、早速だけど研修内容の説明を頼めるかな?」
「分かりましたカイトさん。今回研修用に受けた依頼は、建設作業用に開発された無人MTの破壊です」
 マリーの説明によると、ビルなどの建設作業用に開発されたMT
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