女で運び屋だけど、何か?

 遠くで爆音が響いてる。
 戦場なんだから爆音ぐらい響くのは当たり前だけど、そんな音を耳にしても、アタシはまるで現実味を感じる事が出来なかった。
 ここが戦場から比較的離れた安全な場所だからかもしれない。
「くぁ……」
 思わず欠伸が出てしまう。
 でも流石に眠りはしない。ていうか眠れない。
 さっき『安全な』とは言ったけど、実際には絶対安全と言い切れる場所じゃあない。
 飛んできた流れ弾がギリギリ届くぐらいの範囲、そこに待機するヘリの中にアタシ達はいた。
「あ、あのお嬢様? い、一応、この辺りも戦場な訳ですし……。も、もう少し緊張感を持ってですね……」
 隣から、オドオドとした、遠慮がちな声が聞こえる。
 アタシが声のする方へ首だけ向けると、声と同じで顔も情けない男が操縦席に座っていた。肩をすくめてビクビクしている様子は、まるで子犬だ。
 年はアタシより上のはずなんだけど……。
「RD。別にアタシが緊張して無くても、アンタがその分緊張しているから良いでしょ?」
 自分で言っておいて何だけど、滅茶苦茶な理屈ね……。
 RDもそう感じているのか、反論しようと口を開きかける。
 でもアタシは自分の子分に言い負かされるのは、はっきり言って嫌だ。
 だから言葉の矛先をずらしてみる事にした。
「RD? アンタの危険センサーは何か引っかかってるの? 危ない?」
 質問されたRDは開きかけた口を閉じ、少し考え込むような顔をした。
 こういう顔を日頃見せてれば、女性からも少しはモテルと思うんだけど……。
 でも、この前お姫様がRDのオドオドした態度を「可愛い」とか言ってたし、その辺は好みの差かしら?
「……危険は無いですね。むしろ……」
 答えるRDの顔はオドオドした様子は無い。
 臆病な性格だからこそ、誰よりも危険を感知する能力に長けたRDは、自分のその能力には絶対の自信があるらしい。
「もう終わったようです」
 アタシが「えっ?」と聞き返すのと同じタイミングで、頭上がパッと光った。
 それが二回、三回と連続して、ようやく信号弾の光だと悟る。
 よく見ると逃げるように(実際逃げてるんだろうけど)、戦場から離れるACが三機確認できた。
 戦う前は四機だったことを考えると、あと一機は撃墜されたみたいね。
「よっし! もう一方が離れた頃を見計らって、回収に行くわよ!」
「りょ、了解しました!」
 またオドオドした態度に戻りながら、RDが答えた。
 さーてと、売り物になりそうな品が残ってると良いんだけどね。
 ああ、自己紹介がまだだったわね。
 アタシはロザリィ。
 若くて美人な運び屋よ。
 隣の男はRD。
 アタシの相棒でも恋人でも旦那でも無い。
 ただの子分だから、その辺はよろしく。



 荒れ果てた。
 アタシ達の生きている世界を一言で表現するなら、それが一番しっくり来る。
 戦争、環境破壊、天災……。
 どれが原因じゃなく、どれも原因なんだろうと思う。
 けど、どうしてそうなったのかなんて、アタシには正直興味が無い。
 これからどうするのか、大事なのはそこなんじゃないかしら?
 辛うじて人が生きていける生存可能地域を行き来し、物資をやり取りする運び屋、ミグラントがアタシの選んだ道だった。
 危険と隣り合わせの運び屋なんて道を何で選んだのか?
聞かれても特に理由は無い。
 ただ、生存可能地域の中で限られた物資を奪い合い、惰性的に日々を過ごすよりはずっと生きていると実感できるからかもしれない。
 戦場で破壊された兵器の中から、まだ使えそうな物を探して、直して、売
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まろやか投稿小説 Ver1.50