第十話「Faire face」

 ネクストを乗せた輸送機が二機、日が昇り始めたばかりの空を掛ける。
 空気を切り裂く轟音が微かに聞こえる中、フランシスとユリエールの耳に聞きなれた声が入ってくる。

『まもなく作戦領域内に到達。ネクストを順次戦闘モードへ移行させて下さい』

 機体に乗り込む前に見た黎明の空は雲ひとつ無い晴天であった。
 自身の心情との正反対として例を挙げるならばその時見た空が筆頭になるのだろう。
 コクピットの中でフランシスは、コンソールパネルを叩きながらそんな事を思っていた。
 結局、母の事は聞けなかった。
 それはそれで無念だが、なによりもフランシスの中にはあの時自分の中に現れた「安堵」の感情が許せなかった。それが表れていたらしく、その後のユリエールの心配ぶりは相当なものだったのだから余ほどである。
 ただ、先日の休暇時とは似ても似つかないオペレーター―クレア・ブライフォードのどこか無機質な、所謂、仕事モードの声のお陰で任務に集中できないという事態には陥っていない。

『大丈夫か、お嬢様方。俺にはお前たちをエスコートできるほどの余裕はないぞ』

 不意にクレアではない別の男性の声が聞こえてきた。喉の奥底から響くその声は低く、どこか獣のような雰囲気を感じる。

「…ダリオさん。すみません、ご心配なく。大丈夫です」

 今回の任務としてローゼンタール側から派遣された寮機、トラセンドを操るカラードNo.11のリンクス「ダリオ・エンピオ」である。
 任務内容は「農業プラントを占拠した二機の不明ネクストの撃破」というものであり、戦力的には不安が残るための安全策という判断で派遣が決定されている。
 野心家で権力志向の強い彼は任務に対しては立身出世の足がかりとしか思っていないようで、その子守り、もしくは尻拭いになるであろう任務にも特に嫌な顔を見せずに承諾していた。

『相手は所属も分からん奴らだ。数で上回っていようが、お前らなら一瞬の隙すらあの世へのチケットに成り代わる。ハッ、せいぜい気張ることだ』

 高圧的な言葉を言い捨て、通信を終える。
 ユリエールが少し反応したがそれはすぐさまなだめて落ち着かせた。
 経験も実績も圧倒的に上である彼が言うその言葉に間違いは無い。
 その上、任務の始まる前から互いの和を乱すような状況を作り出すのは避けなければならない。フランシスは自分を落ち着かせた。

『間も無く投下ポイントです。カウントを開始』

 戦闘モードに移行した愛機「ジャンティ・アムール」のグリップを握り、精神を統一させる。
 ローゼンタールの騎士達が雲の壁を突き抜け、青々とした大地へと降り立とうとしていた。


―リッチランド農業プラント。
汚染されつくされた大地でクリーンな農産物を提供することを実現するために作られた、アルゼブラの小規模農業プラントである。
 農産物が育てられているブロックには対コジマ粒子用のカバーシールドが施されているが、実際の農産物が汚染されていないかどうかという点においては消費者からの視線は厳しい。

『…「籠中(ろうちゅう)の鳥」か。知らんな…。丁度良い、アームズフォートにも飽きてきたところだ』

 黒い「GAN01-SUNSHINE」をベースにしたネクストに乗る男が空から表れた三機を見てそう呟く。声からして年齢は30代から40代といったところだろうか。

『久しぶりだなぁ、ネクストを相手に暴れられるなんてよぉ』

 それに呼応するように隣の四脚型ネクストに登場する男が喜びを表しながら不適に言う。こちらの声はまだ若く20代の半ば辺りの印象を受け
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まろやか投稿小説 Ver1.50