全てのリンクスに送られたアルテリア施設防衛の依頼メール。
しかし何の手違いか、リンクス以外にもそのメールを受け取る者がいた。
とはいえネクスト二機の相手など、リンクス以外で受ける者はいないだろう。
その男にとって不運だったのは、最初にそのメールを見たのが本人ではなかった事だ。
『三分間、待つのだぞ』
奇妙なエコーが混じった少年の声に、男は腕にはめた時計を見る。
男の目の前には火に掛けられた鍋があり、鍋の中では沸騰したお湯がぐつぐつと音を立てていた。
時計の秒針が丁度十二時を回ったところで、コンロの火を止める。
「腹が減っても、じっと我慢の子であった……っと。さーて、ご飯よそってくれポンコツ」
『だからポンコツじゃなくて、テックンだって何度言ったら分かるの!?』
しかし男はその声を無視すると、怒った相手の手から皿を取り上げ、炊飯器の蓋を開けた。炊き立てのご飯の香りが鼻をくすぐるが、男は炊飯器の中を見て顔をしかめた。
「こらポンコツ! てめぇ、また炊けてすぐに混ぜておかなかっただろ!?」
男はそう怒鳴ると、近くに置いてあったスパナで目の前の平たい筒状の頭を叩いた。
傷害罪で捕まりそうな勢いで振り下ろした男だったが、固い物を叩いた時と同じ衝撃を受けて、逆に男の腕が痺れた。
『あいたたた……。何するんだ、ブラフマン!? 頭がちょっとへこんだじゃないか!』
ブラフマンと呼ばれた男は無視した。頭が少しへこんだぐらいなら、全く問題が無いと知っているからだ。
何故なら彼が叩いた相手は人間じゃないのだから……。
銀の筒状をした身体に、円い形をした青いカメラ。細い腕の先には鋏状の手がついている。
かつて作業用として活躍していた無人ロボット『テックボット』と全く同じ姿だ。
唯一違う点といえば、ブラフマンの腰の辺りまでしかない身長だろう。
昔、廃棄されていたものを持ち帰り、知り合いの技術者に修理してもらった結果こうなったのだが、今ではその時の事を後悔する毎日だった。
溜め息をつくと、ブラフマンは皿に半分ほどご飯を盛り、湯の中で浮かぶレトルトパウチを取り出した。
封を切ってご飯の横に掛けると、湯気と共にカレーのスパイスが香り、思わず顔が綻ぶ。
「先着百名様限り、レトルト食品セールを勝ち残った甲斐があったってもんだ……」
無精髭の生えた顎に手を当て、しみじみと呟く。
『やっぱりブラフマンもリンクスになろうよー。適性はあるんだし、ネクストに乗れば仕事も報酬もウホウホだよ?』
「ウハウハな……。悪いが俺は今の仕事で満足してる。コロニーの警備員で充分だよ」
実際にはブラフマンは警備員などではなく、レイヴンと呼ばれる傭兵である。
アーマードコアと呼ばれる人型汎用兵器(現在ではノーマルと呼ばれている)を操り、戦場の花形と呼ばれていた彼らだったが、新型アーマードコアであるネクストの登場に伴い、仕事は激減した。
今ではレイヴンに残された道は、企業の犬となるか、武装勢力に加わるか、コロニーの警備をするぐらいしかない。
「大体、適性があるからって、なれるとは限らないだろ?」
『でもレイヴンからリンクスになった人だっているんでしょー? アナトリアの傭兵みたいにさー』
アナトリアの傭兵。
かつて伝説とまで呼ばれた腕利きのレイヴンにして、後にリンクスとなってオリジナルリンクスを凌駕する戦果を挙げた男だ。
そんな男を引き合いに出されたところで、ブラフマンには笑う事しか出来ない。
話を打ち切るように手をひらひらと振ると、スプーンですくったカレーを口
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