#8.Lady Blader I

 エレノアがアストライアーの所に来て10日が過ぎた。窓の外は黒雲に覆われた空が広がり、一日中雨が続いている。
 この雨もそうだが、レイヤードの気候は基本的に地上におけるそれを再現している。そして、この雨は既に一週間前から降り続いており、今の時期にしては異常な気象とされている。しかし、正常な気象とされる地上世界の気象を知る者は殆どいないだろう。地底に閉ざされたこの巨大な檻を管理している「ただひとつのもの」であれば話は別だろうが。
「いよいよ明日か……」
 あまり飾り付けられていない部屋の窓から、雨が振り続いている薄暗い空を見上げ、アストライアーは呟いた。
「ん、なんのこと?」
 女戦鴉の考えを遮った少女の声。その主は、ひょんな事からアストライアーが養う事となってしまったエレノア=フェルスである。
「いや……明日アリーナで試合をする予定があるのでな」
「アスおねーさんが?」
「ああ。相手は私と同じく女性レイヴンだが……かなりの腕利きだからな」
「そのれいぶんってだれ?」
「ワルキューレ。私が在籍しているレイヤード第3アリーナのBランカーだ」
「へぇー、アスさんって3つもアリーナでしあいしてるんだ」
「ちょっと待て、私が在籍しているアリーナは一つだけだぞ?」
 アストライアーが3つのアリーナを渡り歩いているとエレノアは解釈してしまった様である。だがアストライアーは、あくまで第3アリーナに在籍しているランカーであり、複数のアリーナを渡り歩いての試合はしていない。
 それ以前に彼女は、他のアリーナでの試合は経験した事が無い。時折観客に紛れて試合観戦をしているが、それは娯楽目的ではなく、他のレイヴンの情報収集の一環として行っているだけの話である。勿論、依頼で出向いた先で敵として出くわす可能性があるからである。
 それに彼女の狙いは、あくまでアリーナの暴君・BBの首。彼の息がかかったレイヴンを潰すのならまだしも、必要と思える以上の試合に関わる気も無かった。
「まあ、アリーナは何箇所もあるが、私が戦う場所は一箇所だけだ。そこを間違えないでくれ」
「そうなんだ、わかったよ。あ、でもアリーナっていくつあるの?」
「今のところ7つ」
 アストライアーはエレノアと話をしつつ、父・アルタイルが生前行っていたワルキューレとの戦いを思い浮かべていた。
 あの時、彼は機動性を極限まで高めた軽量2脚ACにハンドガンとブレードを装備。回避に徹し、機を見て一撃を加えると言うスタイルで戦っていた。
 だが当時から既に、ワルキューレは射撃の名手として名を馳せていたランカーだった。アルタイルは回避に徹するも、スナイパーライフルによる正確無比な狙撃を完全に回避する事は出来ず、同時に脆弱な防御の軽量2脚で戦いを挑んだと言う事もあり、少々の被弾でも、装甲はおろか内部機構までもがダメージを負わされる有様であった。
 そんな試合展開もあってか、結局彼女とは「銃弾一発の差」と呼ばれるほどの僅差で勝利する事となった。
「でもれんしゅうしないでいいの?」
「それをどうするかを、これから考えるんだ。それと、練習なら今日も既にやって来た」
 無論、アストライアーも何もしていなかった訳ではない。情報屋メタルスフィアからワルキューレ絡みの情報を仕入れ、ストリートエネミー、ミルキーウェイらを相手に模擬戦闘もして来た。
 愛機ヴィエルジュも、試合に備えて既に整備してある。
 一応準備は整えたつもりだが、自分の父親を敗北寸前にまで追い込んだ女性レイヴンにどう挑むか、彼女は決めかねていた。
「さあ、もう眠れ。明日は私の試
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まろやか投稿小説 Ver1.50