#7.日常的ミッション

「……朝か…」
 カーテンの隙間から差し込む人口の朝日を浴び、アストライアーは目覚めた。
 無言のまま、彼女は半身を起こし、枕元に置かれた目覚まし時計に目を向ける。現在午前7時5分前。7時にセットされたアラームはまだ鳴っていない。
 起床したアストライアーがカーテンを半分開き、部屋に朝日を照射しだすと、その脳内では機械的とも本能的とも言える思考が起動させられ、脊髄から手足の末端に至るまでの神経に覚醒を促す。
 同時に、室内の様子も明らかにされた。装飾と呼べるようなものが一切無く、全体的にすっきりとした印象をしている室内だが、何故かそこには物騒な雰囲気があった。
 ベッドの横にはデスクが設置されており、表面の所々がわずかに傷付いた、薄型ディスプレイのパソコンが設置されている。その前には漆黒の刀身を持つ刀が、鞘に収納された状態で、「黒百合」と象嵌された台座に固定されていた。刀身の周囲には鍵の付いた鎖が巻き付けられ、簡単には持ち出されないよう工夫されている。まるで、刀に封じ込められた得体の知れない力を、厳重に封じているように……
 その前には、折り畳まれた衣類一式と、椅子にかけられた男性用の軍用ロングコートが見て取れる。デスクの脇には書類の束が、バインダー式のファイルに収められて片付けられていた。
 デスクの向かって右側の壁は引き扉になっており、その中はクローゼットになっている。無造作に開けられているその中には、着用者と、幾多の相手レイヴンの血を吸った、どす黒い防弾・対刀性のボディスーツや防弾ジャケット、ハーネス類が吊るされ、その下にはボディスーツの各部に留め付ける軽金属装甲が無造作に転がっていた。
 更に装甲の傍では、最もポピュラーな9mm×19mm弾を放つ拳銃、折り畳んでの持ち運びが可能なショットガン、催涙ガスを詰めた携帯用のスプレー缶、トンファーと称されるトの字型の棍棒、鞘に入れられた軍用ナイフ数本、ショットガンの銃口ほどの直径を持つ金属製の杭、人間用レーザーブレード等の数々の武器が、動作停止状態で陳列されていた。
 さっさと着替えるか……物騒な空気を放つクローゼットなど気にも留めない部屋の主が、ベッドの横に設置されたデスクの上に、予め置かれた着替えに手を伸ばす。だがそこで彼女は違和感を覚え、動きが止めた。
 クローゼットが原因ではない。彼女にとって、それは見慣れて久しい光景であり、今更違和感を覚えるようなものではない。
 異変は床にあった。本来何も無い筈の床に布団が敷かれ、見知らぬ少女が眠っていたのを目にしたのだ。
 即座に警戒態勢に移行したアストライアーだったが、しかしすぐにその少女――否、幼女と言うべきだろうか、ともあれその者の正体は判明する。
「……何だ、エレノアか」
 それは昨日からアストライアーと同居する事となった孤児の名であった。孤児が寝ている横で、機械的とも言える手際の良さで寝間着から普段着へ着替えた後、女戦鴉はエレノアの寝姿に目を向ける。
 と言っても顔しか見えないのだが、しかし枕に頬擦りをする様な状態から、すうすうと規則正しい、心地良さそうな寝息を立てている。その表情は実に安らかで、可愛いものだった。あたかも、布団の温もりを全身で感じている様に。とてもこの殺伐とした部屋には似つかわしくない。
 それを前にし、彼女は悩んでいた。もう少し寝かせてやるか、それとも起こすべきかについて。今まで路上生活していたエレノアが、こうして気持ち良さそうに眠っているのを邪魔したくはなかったが、一方ではこの家で生活する身分ゆえ、自分のサイクルに合わ
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まろやか投稿小説 Ver1.50