#39.Lady Blader III -Reckless battle-(序章)

 マナ=アストライアーは、愛機ヴィエルジュのメインコンソールを、憂いを帯びた表情で睨んでいた。
 機体そのものについては今の所、全く問題はない。サイラス以下整備士達に半ばデスマーチを強いる事となってしまったが、その甲斐あってショットガンCWG-GS-56と小型ミサイルCWM-S40-1は最大携行弾数いっぱいに詰め込まれ、連日の依頼で生じていた損傷箇所も全て完全に塞がっている。
 それでもなお、彼女の憂いはどこからともなく現れる。そして、如何なる相手にも引かぬ勇猛さと、試合の上でも無表情で殺しをやってのける冷酷非情さを併せ持つとアリーナファンから認識され、多くの同業者達が恐れ戦いて来た筈のアストライアーを、病魔の如くじわじわと蝕んでいくのだ。これはレイヴンとしてのプライドでも、また父親の戦闘スタイルをなぞってBBに復習する事を旨としていたレディ・ブレーダーのプライドでも、抑えられる性質のものではなかった。
 その原因は明らかだった。
 恐らくは今、恐らくは自宅で独り大人しくしていられる筈は無いであろうエレノアだ。
 自分はエレノアの保護者という立場の癖に、まるで彼女を放置して自殺しに行ったも同然の立場だったのだ。母を失った悲しみを知っているだけに、これが子供を抱える身としては最低の部類に属するであろう行為である事を、アストライアーが分からないはずは無かった。
 しかし今は、その自覚を抱いても尚、この場に臨むべき理由があった。
 自分にこれまで何度も――記憶にあるうちでも最低4回は敗北の辛酸を舐めさせたイレギュラーレイヴン・直美の存在だ。彼女と取り巻き無しの決闘に臨む事で、その強さと、謎に満ちた人間性の一端が垣間見えるかも知れないというレイヴンとしての好奇心と、これまでの連敗の礼をしてやらねば気が済まぬと訴える腹に押し切られ、感じなかったわけではない恐怖を圧して彼女との決戦に臨んだのである。
 これがアリーナ運営局を通して大々的に知れると、イレギュラー認定されている相手なのだから当然と言うべきなのだが、アストライアーにはレイヴンであるかないかに関わらず、戦う前から負けているも同然の扱いをされていた。
「無謀過ぎる」
「無茶だ」
「死にに行くつもりか?」
「全くバカな事をするよなあ」
「試合開始前からアストライアー終了のお知らせ」
「まともな神経のレイヴンだったらこんな事は考えない」
「試合だから強い奴に喧嘩売るのは仕方ないけど、自分からイレギュラーに喧嘩売るのは普通じゃない」
 これらは全て、ネットのコミュニティや掲示板であればどこでも見られるファンからの意見である。この時ばかりは、アンチからさえもほぼ同様の反応が返って来ている。つまりは立場に関係なく、そういう程度の認識しか抱かれていないのであった。
 今のアストライアーが考えても、あのイレギュラーとの戦いは九割九部結果の見えている事であった。それにもかかわらずイレギュラーと決闘しに行く様な自分が、果たして決闘を生き延びられたとしても、今後エレノアの保護者として相応しいのかと言われると、「然り」とは言えなかった。
 本来自分がいつ死ぬか分からぬ状態なのだから、エレノアに対して遺産は兎も角、今後を担える後見人ぐらいは準備しておくべきだったが、アストライアーはそれを怠っている。レイヴン業界の暗くダーティな側面を見過ぎ、時として身を以って思い知らされた事で、人間関係において重大な問題が生じていた事が原因であると、彼女は認識していた。
 何せいざと言う時にエレノアを頼める相手が戦友ブルーネージュぐらいしかい
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まろやか投稿小説 Ver1.50