#38.交錯

 文明を手にし、都市を築くまでに至ってから生物種として大きな進化も変容もしていない以上、人間が地下世界へと生活の場を移してからも、水の重要性は何ら変わる事がない。
 生物種それ自体としても、生命を維持するには毎日最低2〜3リットルは水が必要であると言われている上、農業を初めとしたあらゆる場面で水が何かしらの形で関わってくる。そしてその重要性は有事において、ライフライン寸断と言う形や、そもそもそんな概念が存在しない環境で思い知らされるのが常である。更に地域によっては、水はあっても安心して口にする事すら出来ない場合もある。
 だから旧日本列島の様なあまりにも普遍的に水がある場所も含め、世界各地において水と言うのは非常に重宝され、貯水・取水施設が各地で作られるのが常であった。レイヤード第3層・産業区のバレルダムも、そうした一つであった。
 そこに、ブルーネージュことアレクサンドラ=グレイアムが、愛機プレーアデス共々「陸送」されていた。クライアントであるミラージュの意向に従い、AC数機を纏めて運べるほどの大型トレーラーのコンテナに匿われて作戦領域へと向かっているので「陸送」と言う形である。
 プレーアデスは両足を伸ばして据わった状態で固定されており、ブルーネージュはその中で、各種のシステムの確認をしていた。コンソールでは、彼女が好みで設定したライトブルーの各種表示が踊り、各種システムの状態確認が順調に進み、かつ異常がない事を伝えている。
 とは言え、現状において、この依頼においては問題が山積状態にあった。
 ブルーネージュが手元に控えている契約書によると、今回彼女が請けた依頼はバレルダムの警備となっている。産業区にあるとは言え、バレルダムの貯えは産業区の生活・工業用水として非常に大きなウェイトを占めている。しかも大規模貯水施設でありながら、未だ管理者実働部隊の襲撃は受けていない。
 とは言え、クレストとキサラギの主要な軍事地点をほぼ壊滅させ、ミラージュ戦力も全盛期の3割近くにまで落ち込んでいる現在、管理者部隊の攻撃は防衛戦力を回しきれないライフラインにまで及ぶようになっている。発電所やダム等が破壊された事で都市機能を断たれたセクションも続出しており、最近では第1層・自然区のセクション714に位置する、アビア湾のキサラギ水精製施設も襲撃された。幸い、この時は近くにアキラとその仲間達が、偶然か何らかの意図があっての事は不明ながら付近に居た為、キサラギの水精製施設は壊滅を免れたが、同様の襲撃は各地で起きている。
 そこでミラージュとしては、バレルダム襲撃への備えが急務となったのだが、本来この任務を請け負うべき社の部隊は相次ぐ実働部隊の襲撃によって失われている上、残った戦力も疲弊していて、十分な人員を送り込む事が出来ない。かと言って、現在駐留している警備戦力だけでは心許ない。
 その為ミラージュは止む無く、レイヴンを派遣し警備に当らせる事を決定。複数のレイヴンを雇い、日毎に交替する運びとなり、まずはブルーネージュ達を向わせる事となった。
 だが、ブルーネージュ達が召集されブリーフィングに臨んでいた最中、バレルダムが武装集団「アルケミスツ」に占拠されたとの急報が警備部隊よりもたらされた。その為急遽ブリーフィング及び作戦内容を変更せざるを得なくなったのである。
 アルケミスツについてはブルーネージュも知っている。以前、トレーネシティ地下の下水道にてテロを画策していた武装集団で、その時――ブルーネージュは偶然であったのだろうと見ていたが、アストライアーに発見されてテロ
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まろやか投稿小説 Ver1.50