#5.血路

 アリーナと言うのは、観客の歓声やら罵声やらに彩られる娯楽場であるだけはない。
 此処で戦うランカー達もまた、一部に例外――いわゆる強化人間と呼ばれる者や、あるいは自分で戦わずに自作の無人ACに戦わせる者こそあれど、基本的には血の通った人間。この狭い世界で戦いを続けていれば、様々な感情が生まれる事は必然と言って良い。
 一例を挙げるとするならば、このアリーナのCランクランカーである「ミダス」と「バーチェッタ」の両人を挙げるとしよう。
 この2人、嘗ては恋人同士であり、共にアリーナに参戦した過去があったのだが、ミダスがランカーとして成長を遂げて行く中、バーチェッタは彼女との順位の差に壁を感じ始め、現在はすっかり疎遠となってしまった。
 さらに、同じ事が此処の下位ランカーであった「ツインヘッド姉弟」にも言えた。此方は弟のツインヘッドWがアリーナの戦いの楽しさに開眼し、何時しか姉のツインヘッドBは弟との順位の差にコンプレックスを抱き、焦燥感を抱いている。弟もそれに気が付いているのか、姉との間に壁を感じていると言う。
 こうした事例は兎も角として、此処は在籍するランカー達の人間模様がひしめき、ぶつかり合う場所でも有るのだ。
 そしてこの日行われる試合にも、様々な思いが交錯している。観客は勿論、当のアリーナランカーにも。
 レディ・ブレーダー(女剣士)の異名を持つ、あのレイヴンとてその例外ではない。


「続きまして、B-5「ノクターン」選手とB-6「アストライアー」選手の試合を…」
 この日もアリーナドームに、次の試合を開始するアナウンスが流れている。
 そんな中で、アリーナの入場ゲートの前に佇むヴィエルジュのコックピット内で、醒めた表情のマナ=アストライアーは呟いていた。
 マナ=アストライアーはこの年20歳。普通の人間ならば、青春や恋愛を謳歌し、将来への希望や可能性を胸に抱き、活気に満ち溢れた表情をしていても不思議はない年齢だ。
 しかし彼女は、年齢に似合わない、冷え固まった鉄のような心を持っていた。それを反映したかのように、表情はひどく醒めており、変化に乏しい。
 濃紺の切れ長の瞳も、見た者をそのまま斬れそうな、鋭くも冷たい眼光を放っている。それは最早、血に飢えた獣の瞳ですらない。相手を殺す事に何の疑問も躊躇もない、まるで肉食昆虫の単眼か、あるいは戦闘機械のカメラアイのような印象を抱かせた。
 そして実際、この女は相手を攻撃する事に躊躇などなく、過度なまでの自己防衛意識により、時として味方のレイヴンすら斬り殺す事も辞さなかった。
 しかもその身体は、短く切り揃えられた頭髪も相まって、一見すると華奢な男性に間違えられるほどのものであり、女性特有の膨らんだ胸など、その原形すらも無かった。
 それはまさに、戦う為だけに生きているような無機質な女性だった。いや、むしろ殺す為だけに生きていると言っても過言ではない。
「ノクターン選手は、オーバードブーストを効果的に使用した奇襲戦を得意としており、ブレードでの接近戦に絶大な実力を発揮します。対するアストライアー選手は、かつてトップランカー候補と謳われたアルタイル選手の娘さんで、こちらも父アルタイル選手と同じくブレードを主体とする接近戦を得意とする……」
 アリーナでは、観客向けに選手を紹介するアナウンスが流れている。その中、アストライアーは目を瞑る。
 彼女の脳裏には、かつての自分の姿が浮かんできた。


 普通、20歳と言えば勉学やアルバイトなどをこなしつつ、彼氏や友達を作り色々と楽しみたい年頃であろう。マ
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まろやか投稿小説 Ver1.50