#10:バグ・ハンティング -アミダ・アタック-

来ないが、少なくとも焼夷弾や炸裂弾などに比べれば、環境へのダメージは少ないのは確かである。
「大丈夫ですか?」
「何とか食われずに済んだぜ」
 心配して訊ねるディアマントに、クオレはありがとなとサムズアップした。
「スティンガーは何ともないか?」
「どうにか……特にどこかがイカれたというわけでもないようですが……念のため、調べます」
「分かった。周りはディアマントと一緒に見張っておくよ」
 頼みますとアイザックスに返すと、クオレはスティンガーを立ち上がらせながら、機のコンディションを確かめていく。
「ハインライン、システムチェックを頼む」
「了解」
 ハインラインの指先がキーボード上で踊り、無線ネットワークを介してクオレ機にアクセス、各種コンディションの状態表示と診断をスティンガーのコンピュータに促した。
 スティンガーに限らず、戦闘機を含む現行の機動兵器はハイテクの塊が動いていると言っても過言ではない。各種のシステムとそれを支える精密機器類や、関節構造を初めとして、複雑に干渉しあう機械類が欠かせないからだ。特に人型兵器には言える事である。
 しかし機動兵器は、システムの肥大化や構造の精密さに伴い、総じて衝撃に対する脆さをも抱えることにもなった。
 まず、転倒などで強い衝撃が加われば精密機器類が逝く危険が伴う。精密機器が故障すれば各種のシステムを満足に維持出来なくなるのはコンピュータの登場以来の常識であるが、質量の大きい機動兵器ともなれば、装甲などで守られているとは言え、転倒時に加わる衝撃も相当なものである。
 さらに、酷い場合は電子機器や回路どころか、関節が壊れたり、最悪シャフトが折れる危険性さえあった。
 人型兵器の場合、この問題は深刻だった。何しろ人型兵器はその構造上、上半身と下半身を繋ぐのは腰部だけであり、ここのシャフトが折れたら最後、上半身フレームを支えきれなくなるのである。そうなると機種にもよるが、大抵の人型兵器はまともな戦闘に耐えうるものではなくなる。
 現行の陸専用機動兵器が歩行を主な移動手段とはしていないのも、そうした理由あっての事だった。走った所で速度は知れており、また内部機構に及ぶ衝撃も大きいのだ。スティンガーなどACBの多くは脚部内臓のローラーとブースターの併用によりでの高速陸上移動を可能としているが、腰部のシャフトが折れればそれも意味を成さない。
 クオレもそのあたりは叩き込まれており、故に転倒したスティンガーの状態を入念に調べていたのだった。さらに言えば火炎弾で機体温度が高まった付近で液体窒素をばら撒かれたため、熱疲労で機体のどこかが損傷したり不具合を起こしている可能性もあった。
「チェック完了。全システム正常に機能します」
 どこかの故障を危惧し、修理のために一度呼び戻すか、他のハンターに依頼しての回収も止むなしかと見ていたハインラインだったが、それが取り越し苦労で済んだ事に安堵した。
「よし、まだ戦えるな……」
 そして、そんなスティンガーを操っていたクオレはハインライン以上に安堵していた。
「それは良かった」
 アイザックスもまた、後輩の機が無事だった事を己の事のように安堵した。
「蟲!」
 レーダーコンソールをちらりと見て、ディアマントとクオレが声を張り上げた。背後に敵が迫っているとハンターの勘で察し、カニス・マヨルを即座に前進させる。
 彼が正しかったと裏付けるように、カニス・マヨルのすぐ傍、ビルの谷間から火が吹き上がった。そして、その火元には、赤い外骨格のアミダが潜んでいた。炎に照らされたそのシルエットは、
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