#37.対決前日、ガレージにて

 つくづく、わからない奴だ――もしマナ=アストライアーに、現在のイレギュラーの片割れである直美について誰かが訊ねたならば、そんな答えが返ってくるだろう。
 これまで彼女が知っている情報を纏めた限りでも、アストライアーが直美について知っている事が果たしてどれほどあろうか、全く以って見当がついていない。戦いから解る事があったとしても、それは全く以って掴み所のないと言うか、どこから掴み所を見出して行けば良いものかが解らない。
 そもそもアストライアーから言わせれば、依頼なら兎も角アリーナにおける不可解さが全く以って解せない。動画やニュースなど映像記録から見た限りでは、最高出力ブースターCBT-FLEETを装備していること以外は特筆するべき点のない器用貧乏なアセンブリで、あらゆる相手と良い勝負を演じながら最後には勝利してしまう、超然とした不可思議性を伴う不可解さが全く以って解せない。
 それがトップランカーレベルであれば駆け引きやアセンブリの相性と言った点もあってまだ分からなくもないが、それがレイヴン暦半年足らずの素人にまで及んでいる。普通のランカーに直美の腕前が備わっていたならば有無を言わさず、それこそ秒殺も珍しくはないだろうとの印象がアストライアーにあり、自分もまた、同じ立場ならそうしているとの認識があったのだ。
 アストライアーは自分との戦いにおいて見せたスタイルについても指摘していた。CBT-FLEETの高出力を持ってすれば、無理に自分に斬りかからずとも後退しながら射撃を見舞い続けていれば良い事である。汎用的なアセンブリとは言え、ヴァージニティーには逃げられる機動力やスピードがあるため、火力面も含め十分可能な事である。それなのに、わざわざリスクの高いインファイトを仕掛ける理由がわからない。
 これまでの敗北の記憶を振り返ってみても、直美が単独で自分に土を付けたのは、剣戟によるものだった。だが、振り返ってみてもその理由など解らなかった。
 直美について更に不可解さを助長させているのが、直美そのものの人間性だった。
 全体的に言って、直美について露出している情報は極めて少ない。自己顕示欲の強い輩も決して珍しくないレイヴンだけに、普通ならばトップランカークラスの大物ともなれば、グッズが売られたりニュースや雑誌で取り上げられる事は多い。自分の名を売ろうと、それらに名を売り込む様子は決して珍しくないからだ。決して多くはないがコーテックスが直々に宣伝するケースもある。
 その中にあって、直美は第1アリーナのトップランカーであるにもかかわらず、グッズ展開が一切ない上、雑誌取材も異様なほど少ない。アストライアーがそうだったように、悪名が高過ぎる為に宣伝やグッズ展開をしても利益にならないとスポンサーやコーテックスが判断したのか、或いはマスコミ嫌いで一切取材を受けないのか、それとも他に何か理由があって自ら情報の露出を控えているのか。いずれにしてもレイヴンとしての直美については、情報量は殆どない。
 反面、一個人としての直美の人間性はアストライアーも見ている。だが時に冷徹で、時に妖艶で、時に温厚柔和と、一体どれが本当の直美なのか判別できなかった。
 これが直美と無縁であったならば何も問題なかった所だが、アストライアーにとっては非常に宜しくない事態である。何せ、積り積もった謎が彼女との決戦前日となってしまった今に至ってもそのままであったのだから。
 無論、アストライアーとて何もしないままこの時を迎えていたわけではない。愛機のチューニングや操縦訓練、イメージトレーニングや
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まろやか投稿小説 Ver1.50