#10:バグ・ハンティング -地獄で同業者-

と律儀さを両立する彼の事である、オペレーターは常に冷静沈着でなくてはならないと己を律し、感情を押し殺していたのだった。クオレが強引ながらも自分を庇っていた事は、彼としては喜ばしい事ではあったが。
「で、お前の姉ちゃんはどうしたよ?」
 そのクオレは、ディアマントの行方をタンザナイトに尋ねている。
「基地に居る。マシンセッティングに苦労しているみたいなんだ」
「じゃあ殺されてはないんだな」
 直接かかわりのないはずの他人を気にするクオレであるが、彼の機の状態が状態だけに、それどころではない事にハイラインは思い当たっている。
「それよりクオレ、良いのですか? 君、武装してないも同然なのでは?」
「確か、お前……弾切れしたとか言ってたようだが」
 先程から沈黙していたヘルファイアーも、一切の武装をしていないクオレ機を思い出した。
「ああくそ、武装取りに戻らねぇと」
 ブリューナクが弾切れしたんだったと思い出し、同業者と別れたクオレはオーバードブーストを起動し、チェイン基地まで大急ぎで戻り出した。だが彼は、コンデンサ容量が悲鳴を上げて一度停止した時、紺と白で彩られたアイザックスのスティンガー――カニス・マヨルが付いて来ている事に気が付いた。
「どうしたんですか? 害虫駆除に行くんじゃなかったんですか?」
「弾切れで一人で戻るには厳しいだろう? 付いていってやるよ」
「害虫駆除は任せろ」
 ヘルファイアーは付け加えた。
「何か悪いな」
 気にするなとだけ返すと、ヘルファイアーは同業者2名を引き連れ、モンスター狩りに向かって行った。
「姉さんに会ったらよろしく言ってくれ」
「わぁってる」
 相変わらずのシスコンだなと毒づきながらも、会ったら伝えとくとだけ言ってクオレはそそくさと通信回線をカニス・マヨルへと切り替えた。
「アイザックスさんも……すいませんね、俺に付き合わされて」
「いや、謝る事はないさ。同じハンターのよしみだろ?」
 アイザックスはそう笑うが、クオレには少々気の引ける、人の悪い話であった。
 と言うのもこの男――フルネームで言えばヴァンキスタ=アイザックスは、クオレが今の拠点都市に落ち着いた後、当時まだ18歳だった彼の面倒を、色々と見てくれた先輩ハンターだったのである。当然、クオレは暴走や暴言などで、ハインラインと共に迷惑を掛けまくって来たのだが、アイザックスはこの問題児に対し、ミス等を咎める事はあっても軽蔑や軽視などは絶対にせず、依頼でも度々サポートしていた。クオレの生活が苦しい時には借金に応じてくれた事さえある。
 そうして敬意や感謝の念を抱くようになってから、クオレは自然と彼に頭が上がらなくなり、いつしか敬語で話すようになったのであった。これは、担当オペレーターであるハインラインや、今現在の上司に当るダビッドソン相手でもしなかった事であった。もっとも、ダビッドソンは兎も角ハインラインはクオレの生活にまでは介入・干渉しない姿勢で、個人の問題としてびた一文たりとも貸さなかったので、それも仕方のない事ではあったのだが。
 やがてコンデンサ容量が回復したクオレは、アイザックス機を伴って再びオーバードブーストを起動。基地へと向かい始めた。
「クオレ、整備中のためハンガーが空きません。ただ君の機の破損状態は軽微ですので、ブリューナクを取り替えた後、燃料だけ補給して再発進して下さい」
「分かった」
「燃料補給は敷地内の、手の空いたどこかしらの補給車からお願いします」
 クオレが了解する間に、スティンガー2機の行く先にインファシティ基地が見え
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