#10:バグ・ハンティング -地獄で同業者-

 カーブを曲がろうと減速した際、背後の敵機は減速が間に合わずクオレの目の前をフライバイした。トンボと複葉機を異種交配させたようなドラグーンフライのフォルムは、彼には見間違いがなかった。そいつがすぐに目の前で反転し、バルカンを連射しかかる。
 クオレ機は即座にオーバードブーストで離脱し、弾幕から逃れた。
 しかし、ドラグーンフライは丸腰の獲物に執拗に追いすがってくる上、振り切ったはずのバレットライフは蛇の様な執念深さを伴って追跡して来ていた。
 しかも、もう1機ドラグーンフライが飛来し、バルカンを発砲しながら迫って来る。
 グラッジパペット以上に方向転換や切り返しの素早いスティンガーなので、現在の所致命的なレベルでの被弾こそ免れているが、この送り狼はやはりしつこい。このままエンジン全開で戦っていると、燃料切れで此方が息切れする危険も考えられた。
 スティンガーは防御性のなさが槍玉に挙げられているが、運動性重視機体の常として、戦闘では殆ど常時ブースターを吹かして戦う性質上、燃料消費にも難を抱えていた。
 少なくとも、長距離を高速で移動しての戦いには向かない。
 幾ら初期型のAC用ジェネレーターでも全く問題なく動く省エネ性でも、その元である燃料が尽きてしまえば話にならない。しかし、だからといって状況を好転させる手段も現状では見当たらない。
 いっその事オーバーシュートを狙い、どこかにドラグーンフライだけでもぶつけてやろうかと考えながら、クオレは丸腰の機体を飛ばして逃げ回った。
「誰でも言い、援護してくれ!」
 咄嗟に叫ぶクオレだが、通信を聞いたのは人間に限らなかったようだ。と言うのもドラグーンフライがまた現れて、2機の仲間共々バルカンを撃ちかかってきたためである。
「この野郎、お前は来なくていい! ってかむしろ来るな!!」
 咄嗟にオーバードブーストで距離を離すが、モノアイがあるだけで装飾要素の無い皿頭をした飛行メカ5機は縦列隊形でクオレ機を追い続ける。バレットライフは大きく遅れていたが、生前のパイロットが抱えていた歪んだ人間性が残っているかのごとく、確実に後を追っていた。
 グラッジパペットと比較してスティンガーが機動性で勝っている事はクオレも否定しないが、ドラグーンフライに追い回されているとその実感は全くない。ドラグーンフライがクオレ機に劣っているのは火力と耐久性ぐらいのもので、運動面に関してはスティンガーをも上回っている。特にその3次元機動力はあらゆる有人ACを凌駕し、MTやACBでも対抗出来る機種はスカイシミターなど、高機動の飛行型機種中でも数えるぐらいしか存在しない。
 事実、クオレ機が急カーブを交えながらビルの谷間をすり抜け、立体交差を潜ってもエンジンノズルやラダー(翼舵)、更には翼そのものを絶妙に稼働させて姿勢制御を行い、脱落者を出さずに追撃を続行。最後尾の1機だけはビル壁面に右の翼を擦らせ、姿勢を崩したもののすぐに立て直した。
 他の機はクオレの進み方とビル街を飛ぶコツを掴んだと見え、やがてバルカンを撃つようになった。ビルのコンクリートが崩れ、窓ガラスが割れ、デスクやOA機器が人間諸共吹き飛び、丹念に彫られた石像や彫刻が粉々になって落ちていく。想像すると胸の悪い光景だが、内心で許せと思いながらクオレはスティンガーを激しく旋回させ、ビル街を進む。バルカンの火線と複葉機の様な機械兵が後に続く。
「この野郎ッ、これならどうだ!」
 クオレは突然ブレーキをかけた。ビルが並ぶ中で急減速し、予想外のタイミングで、一瞬にして距離を詰めた相手
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まろやか投稿小説 Ver1.50