#10:バグ・ハンティング -混沌の狩場-

たのだろう、クオレの行く手ではアスファルトの亀裂より汚水が吹き上がって湿っている。そこで、粘液に塗れたブラッドサッカーたちが這いずり回っていた。
 ブラッドサッカー達は陸生のヒルがベースとされているが、湿潤な場所を好むため、こうして水場に集まる性質がある事は知られている。こいつらは先ほど見た同類とは違い、体長は1メートルに達していない。それでも人間が襲われれば失血死は免れないだろうとみなし、クオレは市民の安全確保を視野に入れ、残らず踏んで行く。
「ったく、いつからインファシティはこんな地獄みたいな有様になっちまったんだ!?」
「それは断言出来ません。ですが、我々が来る前から兆候はあったようです」
「どう言う事だ? 教えてくれ」
 クオレは機を進めながら返した。
「下水道に突入したハンターたちから、アミダやブラッドサッカー、マガットなどの目撃情報が相次いでいます。これだけのモンスター達が数日そこいらで今のような有様になるとは考えられません」
 少なくともマガットやブラッドサッカーに関しては、インファシティ周辺から現れた物ではなく、相当前から下水道に巣食っていた可能性が濃厚だと、ハインラインは自説を述べた。
「何より、クオレもあのニュースは知っているはずです」
「ああ、覚えてる」
 ハインラインが言うニュースとは、今年の3月下旬から続出している変死事件だった。被害者は老若男女さまざまであったが、いずれも路地裏で血液を抜き取られたり、四肢や内臓がなくなっていたりと無残な姿で発見されている。更に下水道職員たちからも「化け物を見た」との証言が相次ぎ、事態を重く見たイェーガーズチェインは警察と共同で下水道内のモンスター掃討を行うと発表した。だが、その準備の段階でレイヴンとの抗争や機械生命体との戦いが発生し、実施出来ずにいたのであった。
 それを遠征前に新聞で知っていた為、若きハンターはハインラインの言を否定しなかったのである。
「ったく、あのクソッタレのド畜生が攻めて来なけりゃ……!」
 モンスター相手だというのに、クオレの怒りの矛先はジナイーダに向けられていた。だがそれも仕方のない事である。何しろ、彼女が襲撃した事で生物兵器退治が先送りになったのだから。
 そんなクオレの神経を逆撫でしたのは、全長3メートルほどに巨大化していたブラッドサッカーが女性を襲っていた事だった。惨い事に用を足している最中にでも襲われたのか、露出した臀部から吸血されている。女性なので整理の血の匂いに惹かれて襲ったとは推測されるが、いずれにせよクオレの生理的嫌悪感は臨界点を突破。世界一卑猥で危険なヒルにハードフィストをぶち込んで黙らせる。
「おい、しっかりしろ!」
 ブラッドサッカーが死ぬや、クオレはすぐにスティンガーから降りて女性に呼びかけるが、脈拍は一切なく血の気も体温もない。ブラッドサッカーが吸い付いていた尻は大きく食い千切られ、内臓が露出している。
 ブラッドサッカーは名のとおり吸血もするが、獲物から血がなくなると今度は肉を貪り出すと言うおぞましい習性を持つ。それが、この被害女性に如実に現れていた。
 内部をスキャンする術を持たないクオレであるが、被害者がすでに息絶えている事は明確だった。そう言えば、彼女が悲鳴を一切上げていなかったことにクオレは思い当たった。
 あの地点ですでに息絶えていたのだろうかと推測はしたが、このままひどい姿で放置されるのも不憫だと見たクオレは、近くに偶然あったボロ布で女性の下半身を隠してやってから、スティンガーに戻った。
「クオレ、どう
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まろやか投稿小説 Ver1.50