#10:バグ・ハンティング -混沌の狩場-

えた同業者に始末してもらうより他なかった。
 だがクオレもハインラインも幸いだった。周辺で戦闘していた1機の蒼いスティンガーが、ハインラインからの通報を受けて即座に移動開始、クオレ機とすれ違いでブラッディスライムに向かって行った。チェインでは市民及び建造部の安全に考慮した規約の関係で、市街地での火炎放射器や高性能爆薬搭載の破片効果榴弾――俗に言うグレネードの使用が禁止されている。そのため、恐らくあのスティンガーはプラズマキャノンか何かで駆除に当るのだろう。
 敵への警戒に意識を傾けていた為にクオレには分かり辛かったが、周辺ではスティンガーやサイクロプスを初めとしたACBやMTが、怪物達を探して徘徊している。殆どは他地域より遠征してきたハンターやイェーガーの機体だ。彼等が撃破されたと言う報告が殆ど入っていない為、殆ど一方的な展開となっているらしいとクオレは見た。もっともこれに限らず、ハンティングとはそう言うものなのだが。
 だがクオレは見てしまった。すれ違いざまに味方を見送った直後、ビルの物陰で、マンホールのふたを押し上げて不快な粘液に塗れた生命体が這い出して来たのを。
 単刀直入にいえば、それはヒル――ハンター達からブラッドサッカーと呼ばれる生命体だとクオレにはわかった。だがその体長は優に人間サイズはあり、獲物の血を反映した、滑りを帯びた赤黒い体躯から醸し出される生理的嫌悪感たるや凄まじい。
 しかし、この生物がおぞましいのは、何と言っても原型とされているヒル同様、吸血行為をする事であろう。そして、都市部においてそれは、人間を餌食にする事を意味している。
 このモンスターが生物兵器として生み出されたのか、あるいはもともと居たヒルが突然変異で超巨大化した成れの果てなのかはクオレには分からない。彼に分かるのは、このゲテモノは機動兵器全般に対する攻撃性がない事、そしてこれを排除するにブリューナクは不要であることだ。即座にブラッドサッカーを踏み潰す。
「クオレ、今入った報告です」
 現れたベルゼバブを拡散ビームで叩き落とし、クオレは通信モニターに意識と視線を傾ける。
「機械生命体が西へ敗走を始めたとの事。現在、地元ハンターと政府の連合戦力で追撃中です。チェインの航空隊も、一部がそちらに向かったとの事」
「機械生命態はひとまず大丈夫そうだな。まあ油断は出来ねぇんだけど」
 撃退に成功したとは言え、まだデヴァステイターの総本山がどこかにある。それを潰さない限り、事態が好転する事はないだろう。第一、襲撃して来た群れを駆逐した所で、機械生命体側は未だに頭数で人類戦力を凌いでいる。他の地域では分からないが、少なくとも現在、ユーラシア大陸ではそうなっていた。
 逆にそれが、報酬や名声目当てだったり、機械生命体やジナイーダへの復讐を理由として、インファシティへとハンター達が集まってくる理由にもなっていたのも事実であった。実際、ハンターやイェーガーが操っているとは分かるが、アセンブリ自体は全く見慣れないACや、明らかに独自の塗装だと分かるカラーリングを施されたスティンガーやサイクロプスが徘徊する様子を頻繁に見かける。
 まるで腐臭につられて集まって来るハエだ――クオレはそう思いかけたのだが、しかしながら自分も似たような存在であると言う自覚もあった。他でもない、ジナイーダ憎しで彼方此方を渡り歩いている自分もまた、ハエみたいな存在なのである。既に死した存在であるはずの、忌まわしき女が放っている憎悪と言う名の腐臭に。
「またか……」
 水道管が戦闘の余波で破裂し
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まろやか投稿小説 Ver1.50