#10:バグ・ハンティング -混沌の狩場-

手に出撃するとすれば、大抵は遮蔽物となるビルがない荒野や草原が主であり、市街地への航空部隊投入は滅多に行われなかった。
 故にクオレは理解に窮したが、ハインラインによると、モンスターがあまりにも大量に押し寄せて来た為、ダビッドソン少佐もACやACBだけでは無理があると判断、止む無く出撃を命じたとの事である。
「大丈夫か? 相手はモンスターだぞ? しかも住人もどれ位避難できているか分からん有様だ」
「私もそうは思ったのですが……」
 上からの命令なので私も逆らえないと、ハインラインは言葉を濁した。
「ただ、武器はミサイルがメインであり、先の機械生命体追走戦のような爆装はしないでの出撃です。投下型爆弾の類も恐らくはないでしょう」
「なら良いんだけどよ……」
 クオレは腑に落ちなかった。やはり、市街地を這いずり回るモンスター相手に航空機を動員する事には、どうしても納得がいかない。これがアースガルズ大陸であれば、国土が広く郊外の荒野や草原地帯からモンスターが現れるケースが多かったため、航空機部隊出撃にも理解は示せた。それに、インファシティ郊外は草原地帯や荒野、森林が広がる為、そこのモンスターを駆除しに行くと言うのであればまだ納得が行く所である。
 だが今回はインファシティそのものへの出動であり、クオレとしては納得の行く話ではない。
「考える所は私も君もあるかと思います。ですが、今は……」
「わぁってる」
 気のない返事をクオレは返した。都市部での航空攻撃の是非を考えるよりも先に、さっさと戻ってきて補給を受け、また化け物退治をやってくれとハインラインが言いたいのだと分かったので、とりあえず基地に戻る足を進める事とした。
 確かに、考えに耽って足止めしても仕方がない。今この時も、どこかでモンスターによる犠牲者は出ているであろうから。こうなるとクオレとしては、誤爆をやらかさないでくれと航空隊に頼むように祈るより他ない所である。
 だが、瓦礫の隙間から粘液が飛び出した為、クオレの注意は反射的にそちらに向いた。粘液はスティンガーに掛かることなく、10メートル先の倒壊寸前のビルの壁面に当り、白い煙を上げる。
 咄嗟にクオレが砲口を向けた先で、血液がそのまま動いている様な不定形の生命体が、瓦礫の隙間より這い出した。
 それは、ハンター達から「ブラッディスライム」と呼ばれている怪生物だった。例によってこれも、生物兵器が脱走し野生化した成れの果てである。
 獲物の血を取り込んだことで赤く染まったその身体は、クオレが見る限りでは直径3メートルほどに広がり、ゼリー状になった中心部がドームの様に盛り上がっている。無色透明ではないので内部の様子は分からないが、恐らく中は生者・死者無関係な人体や化け物の肉、そして棄てられたままのゴミが溶けた混ざり物が渦巻いているに違いないとクオレは察した。
「蟲の次に……よりによってコレかよ!?」
 クオレは苦い顔となった。彼が(そしてハインラインも)知る限りでは、ブラッディスライムはアメーバ状の身体だけに致命傷を負わせるのが極めて難しく、しかも再生力が強い為僅かな断片からでも自己を複製してしまうほどである。
 過去、クオレはグラッジパペットでこの化け物に何回か遭遇・攻撃しているが、今見ている直径3メートルクラスのものでさえ、マシンガンを幾ら撃たれても平然としており、レーザーキャノンを何度も照射しやっと始末できたと言う有様であった。また、同業者がグレネードを撃ち込んで吹き飛ばしたものの、飛び散っていた破片のいくらかが焼け残り、後に小さな
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