#10:バグ・ハンティング -混沌の狩場-

ぐに立ち去るべきだったのだが、背後でコンクリートやアスファルトが砕ける音、そしてレーダー上の赤い反応が出現したため、再度使用可能状態にしたブリューナクを向ける。スティンガーを餌と判断したのか、全長5メートル強のグラトンワームが這い出し、口を大きく開いて粘液塗れの醜悪な牙と、気色悪い以外に適切な形容詞のない赤黒い口の中を曝していた。
 すぐさまブリューナクが火を噴き、開いた口を頭もろとも炭化させた上で吹き飛ばした。続けざまに現れた2匹も、同じように苦もなく倒す。
「そう言えばハインライン、アニマドは今どこで何やってんだ?」
「君から見て、南南東・方位160の地点を東に進んでいます。距離14キロ、港湾区画に向かって――」
 通信を遮り、外部週音システムを介しての銃声がクオレの鼓膜を刺激した。
「くそッ!」
 レーダー確認が遅れたと、弾幕に晒されたクオレは舌打ちしながらオーバードブーストを起動、その場を急速離脱しに掛かった。
 冷や汗を垂らしながら、まずいと呟いたクオレはひたすら背後から迫る弾幕から逃げた。ハインラインもそれが正しいだろうと見ていたので、あえて何も言わなかった。
「お前も此処で殺してやる……」
 憎悪以外の人間性を著しく欠いた低い声と共に、黄色と黒の警戒色の迷彩模様が入った重量級4脚ACが、クオレ機の後方に倒れたビルの瓦礫を乗り越えて現れた。その両腕には人間の指の配置を模したユニークな特徴のマシンガンが握られ、肩にチェインガンとミサイルを搭載している。
「……俺が今まで殺して来た奴らと同じようにな!!」
 声の元である重量級4脚ACが飛び上がった。
 それはバレットライフという、24時間戦争時代のACだった。それは即ち、バーテックス、アライアンス、第三者勢力――そもそも武力抗争に加担したかどうかを問わず、レイヴンを片っ端から虐殺していた事で悪名高いリム・ファイアーが、復活していた事を意味していた。事実、バレットライフのコアの正面には、機械生命体軍団のエンブレムであるどす黒い地球が描かれている。
 ジナイーダと同様、復活させられた彼も憎悪以外の人間性を書き換えられており、結果、24時間戦争時代に見られた見境のない凶暴性だけを増大させられた殺戮マシンと化していた。
 もしこれが、レイヴンだけに留まっていたならば、世界各地でアンチ・レイヴンが叫ばれる今、ある程度は容認・許容されていた可能性もあっただろう。しかし、リム・ファイアーの攻撃衝動は、今や無抵抗な人間にさえ向けられており、ジナイーダ同様、無差別大量殺戮者としての悪評はもはや拭いようのない所となっていた。
 事実、彼の通って来た後では大勢の市民がペースト状の肉塊やバラバラ死体にされ、救助用のMTや救急車、重機等が悉く破壊されていた。さらに、付近を通りかかった救急車がチェインガンで粉砕される。
「殺してやる……殺してやる! 殺してやる!!」
 クオレに届く、リフレインされる殺意のみを乗せた声が、リム・ファイアーの捻じ曲げられて歪みきった人間性を如実に現していた。その声と共に、中空から凄まじい弾幕の嵐がクオレに襲い掛かった。しかし、クオレ駆るスティンガーは持ち前の機動性により、苦もなく弾幕を振り切って見せる。
 さらに、クオレはブリューナクを収束モードにチェンジ。エネルギーを充填し、その出力を高めて行く。コンソールに、パーセント表示されたエネルギー充填率が表示されるが、弾幕を掻い潜るのに忙しいため、そこまで注意が行かない。
 フォースフィールドである程度遮られているのは幸いである
[2]前へ|[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6..11]
[7]TOP [9]目次

まろやか投稿小説 Ver1.50