#10:バグ・ハンティング -混沌の狩場-

イルはブラッディランサーの右第1肢の根元に直撃し、血塗られた槍の片方を機能不全にした。しかし腕を千切られ、激怒した怪物は反撃として超硬質の爪を振り上げる。
「危ねぇ!」
 クオレが叫んだ時には、重量級コアは巨蟲の槍に貫かれていた。通信モニターの唐突な途切れ方を見るに、恐らくコックピットをやられただろうとクオレは見た。
 しかも間髪居れず、ブラッディランサーは尻尾をコアに突き立て、糸を引いて滴る黄緑色の不気味な液体を大量噴射し、無残な姿となって煙を上げるACを前方へと放り出した。
 ACに掛けられたのは強烈な溶解液で、びしょ濡れになった装甲は見る間に溶けて行き、続いて腐朽した腕が軋みながらハードポイントより落下し、崩れ落ちた。槍に貫かれて10秒も経とう頃には、ACはスクラップ同然となっていた。
 ブラッディランサーは溶解液を獲物に掛けて硬い殻を穿ち、溶かれた肉ごと啜ると言う悪趣味な捕食を行う事が知られていた。戦闘目的で生成されただけに動きも敏捷であり、その攻撃に対し、オーバードブーストのないACが逃げるには、余りにも遅すぎた。
 そして、ACを喰えぬと判断したブラッディランサーは、クオレ機にも溶解液を飛ばしながら接近して来た。だがスティンガーはACよりも回避行動はずっと素早い。目測を誤った黄緑色の液はアスファルトや鉄筋コンクリートを腐朽させ、泡や煙を上げて融解させたが、スティンガーには滴も当らない。
 迫って来るスピードも、全長15メートルと言う巨大さを考慮すれば常識外に素早いものの、それでも時速400キロ台を軽く叩き出すスティンガーには到底及ばない。
「ハインライン! エネルギー充填率は!?」 
 回避行動で忙しいので、クオレはコンソールを見やらずにハインラインを呼んだ。
「80%です」
「よし、それぐらいありゃ十分だ」
 クオレはファイアーボタンに指をかけた。
「エネルギー残量から察するに、チャンスはあと2回。必ず命中させるように」
 ハインラインから念を押されながらも、降りかかってくる溶解液を際どく回避し、繰り出された血染めの馬上槍から飛び退きで逃れ、クオレはトリガーを引いた。集束されたビームが瞬きも許さぬ時間で突き刺さり――ブラッディランサーの尾を根元より引き千切った。
「外した」
 口を狙ったつもりだったのにとクオレは舌打ちした。
 尻尾を千切られた激痛にのたうった怪物だったが、やがて姿勢を正し、クオレ機目掛けて肉薄した。巨大な爪を振りかざし、今度は口の下から生えた牙の様なものから雷光を飛ばし、スティンガーのフォースフィールドを穿つ。
「最後の一発……」
 クオレは再びエネルギーをチャージし、今度は軋りと唸りを上げながら開閉される口に狙いを定めてブリューナクを向けた。
 ブラッディランサーは表面こそAC用火器弾を容易く弾く鎧に覆われているものの、捕食の為の器官が集中している頭にだけは「隙間」が生じており、もし生物兵器として投入する目的で作り出したとするならば明確すぎる弱点を露呈している。嘗て戦ったクオレはその辺を熟知しており、故に尾を千切り飛ばした攻撃を外れと評したのであった。
 一応、溶解液を封じる事は出来たが、そもそもクオレの腕前を以ってすれば、そんな事をしなくても仕留められる。
 巨蟲の口の下から覗く一対の牙から稲光が迸り、クオレ機を掠めて飛ぶが、これは獲物をマヒさせる事が目的の為、スティンガーとは言え致命傷とはならない。だが、フォースフィールド修復中、あるいはフィールドが破られたり弱くなった箇所に受けたとしたら、電子
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