#10:バグ・ハンティング

外れた個体が現れる。その場合は識別信号を発せられなくしたうえで拠点を放逐され、クオレの言う「はぐれ」として、独自に行動する事となるのだ。
 数日前、フォックスアイ同伴で現れた連中と同じように。
 いずれにしても、同じ拠点で作られた可能性は有るが、インファシティ西で政府軍と交戦している軍団とは別物扱いになるとハインラインは言うのだった。
 オペレーターが説明している間に、クオレは倒壊したビルの陰から現れたベルゼバブに拡散ビームを見舞った。直撃を食らった禍々しい巨大ハエは、蜂の巣のようになってビルの影へと吹っ飛んだ。
「多少、機械生命体の相手はしなければなりませんが、レイヴンキラー等の厄介者を相手取る事はまずないでしょう。現にハンターからは、レイヴンキラーの目撃情報は入っていません。万一の為に航空隊も待機してくれています」
 どうやら厄介者の相手はしなくていいようだなと、クオレは胸を撫で下ろした。
「それよりもモンスターの方が厄介です。かなりの数が、既にインファシティへ侵入しています」
「やれやれ、血の匂いや死臭にでも引き寄せられたか?」
「恐らく」
 ハインラインはクオレの推測を否定しなかった。問題児であるとは言え、ジナイーダがいない時のクオレは人間性的に問題となる要素の薄い青年だと言う事が分かっている上、クオレ自身は機械生命体討伐は勿論、モンスター退治に出ていた頻度も高く、必然的にモンスター達に対しても詳しい事を、ハインラインも認めているからだ。ただ、ジナイーダへの憎悪とそれによって起こる凄まじいまでの攻撃衝動と暴走が、それらを上回ってしまうのが難点である事を疑う余地はないのだが。
「現在、インファシティでは被災者達の救出が進められていますが、一方で、未だに救出されぬまま息絶え、また彼等から流れた血や、腐敗が始まった人体や棄てられたまま放置されたゴミなどが臭気を発し、ハエ、ゴキブリ、ドブネズミなどの非衛生的生命体が各所で発生。都市の衛生環境が悪化しています」
「で、それに引き寄せられてモンスターが出て来たってか」
 実際、クオレが見る限りでは、現在も周辺で銃器や救助隊員が走り回っている。中にはイェーガーズチェインや政府の所属と分かるMTやACB、各種車両が救助活動に参加している姿さえある。
 そして、ハインラインが言うとおり、回収されている遺体も数多い。中には現在進行形で回収されていた遺体もあり、さらに先程市街地を見て分かった事だが、放置されたゴミや、その他想像したくない何かが腐敗した成れの果てを苗床としたのか、ハエが大量に湧いている。そのハエは、ある生物達――モンスターに捕食させる目的で作り出した生命体のエサとなり、それを喰う為にインファシティに生物たちが侵入、さらにそれを追ってモンスターまでが都市に侵入して来たのだと、クオレはすぐに見て取った。
 この当り、野生動物の食物連鎖と何ら変わりがない。
「で、ハインライン。俺は兎に角モンスターを仕留めて行けばいいんだな?」
「はい。特に、戦闘能力を持つものは、救助活動を円滑なものとするため、そして市民に被害が出ないよう、即刻抹殺せよとの指令です。また、出来るだけ被災市民の救出もお願いします。レイヴンや機械生命体等の妨害があった場合は、排除して構わないとの事です」
「分かった。じゃあ、ちょっくら害虫駆除に行って来るぜ」
 クオレは呼吸を整え、操縦桿を握り直した。
 ジナイーダ憎しの問題児が駆るスティンガーの前方を行くのは、クラゲの様な傘を持ち、その下にリボンの様な触手を備えている黄ばんだ浮遊生物だった
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まろやか投稿小説 Ver1.50