#10:バグ・ハンティング

の連絡不十分が原因で誤って納入された機もある。
 しかしながら、ここでも試作機や実験機の類、あるエースパイロット専用に調整されたワンオフ機やカスタム仕様機の類は一切見られない。戦力の素早い建て直しを考慮し、整備や調整に掛かるコストや手間も考慮の内に入っているチェインにおいて、「試作機・専用機と言った類の機は、チェインでは請け負えない」「改造機・専用機は個人の裁量と責任によって運用するものとし、それによって生じた問題に対しては、チェインは責任を負わない」と言う規約があるためだ。
 だが、スティンガーもサイクロプスも、アースガルズ政府を初めとした各地の軍や警察機構に正式採用され、ACを戦場の主役の座から引き摺り下ろした実績を持つACBであり、現役機でもある。ACBに共通する「部位の欠損は、部位単位の交換ですぐに対応可能」と言う優れたメンテナンス性は、この2機種が先駆となっている。
 そして、クオレはスティンガーを選んだ。
「ハンター、ご武運を!」
 スタッフはクオレの無事を祈り、発進時に踏みつけられまいとジープで足早に立ち去った。
 一方クオレはすぐにスティンガーへと向かい、ポッド内に設けられたタラップを伝ってコックピットに飛び込んだ。ACBではあるが、クオレに恐れは全くない。何せ、ACのパイロットとなった後、遠征先で愛機を失ったり、整備の為に出撃出来なくなる事態に度々見回れていたが、その時はスティンガーでしばしば戦い、スティンガーが使えない場合はサイクロプスで依頼をこなしていたのだ。
 スティンガーを選ぶメリットとしては、やはり慣れている事にあった。スティンガーのパイロットを志していた事もあるので、操縦には慣れているし、グラッジパペットがやられた際は、良くスティンガーで戦っていたからだ。しかも、マシンシミュレーションゲームを参考として発展したと言うスティンガーの操縦系統は、ACのそれよりも遥かに操縦者への負担が少ない。
 一応、サイクロプスを選ぶメリットとして「スティンガーにはない、バックパックやリアユニットへの兵器装備が可能」に基づく攻撃力の増大と、薄っぺらなスティンガーの防御とは違い、そこそこの装甲がある事を、クオレは挙げるだろう。
 だが、やはりAC同様に乗り回した時間が多い分、慣れている機体の方が安心感があった。
 コックピットに潜り込むと、クオレは慣れた手つきで各種パネルとコンソールを操作し、システムを立ち上げていく。最初の頃こそACと比較して簡略化されているコックピット・コンソールに戸惑いはあった記憶もあるが、今では全く問題ない。
<システム起動>
 ACの時と同様、コックピット正面のHUD(ヘッド・アップ・ディスプレイ)が前方の様子を映し、システムが正常に起動完了と知らせると、通信モニターに指定のチャンネルを打ち込む。
 接続先は、ハインラインのコンソール席だ。
「……クオレ、無事にレンタル出来たようですね」
 通信モニターに、既に支援体制を整えていたアルバート=ハインラインの顔が映し出された。おかげさまでなと、クオレは親指を立てた。
 その間にもスティンガーの各種システムが起動され、システムチェックが進められる。機体姿勢制御、ブースター、気密制御、自動消火装置、生命維持装置、その他数々の機能が、全て正常である事が伝えられる。
 すべてを確認し、クオレは傍らに置かれていた粒子ビーム砲「ブリューナク」をスティンガーの左腕で拾い上げ、バズーカにも似たその砲身を右腕で担ぎ上げた。肩の固定装置が音を立て、ブリューナクをロックする。
 戦闘準備
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まろやか投稿小説 Ver1.50