#10:バグ・ハンティング

アイアンシザースは獲得した獲物をビルの陰へと引きずり込む形で去って行った。イソポッドは死肉漁りに専念しているようで、集まってきた仲間達と共に、その場をロクに動かなくなった。
「そのまま大人しくしててくれ」
 苦い顔で冷や汗をたらすクオレの様子がハインラインにも窺えたが、元々クオレは機械生命体よりもモンスターの方を警戒しがちな人間だった為、今更何を感じる素振りもなかった。「そこを動くな」等と呟いても、特に疑問は感じなかった。
「クオレ、そんなに警戒するのでしたら退治してはどうですか?」
「そうしたいんだが、やっぱブリューナクのエネルギーが気になる。ハードフィストでやっても良いんだが、イソポッドやアイアンシザースへ迂闊に喧嘩を吹っかけると、何されるか分からない」
 クオレがこうもモンスター達を警戒しているのには理由がある。
 それは、憎悪や破壊本能だけに変質したデッドコピーと、ある程度プログラムされた命令しか頭脳内に持ち得ず、それゆえ動きが定型的になりがちな機械生命体の類と違い、モンスター達が何をしてくるか分からない不気味さを持ち得ている所にあった。
 未だ全容の知られていない未知の敵と言う点に置いては、モンスターも機械生命体も同じ事であるが、整然としたプログラムで物事を処理していくだけの機械生命体と、その中に宿っている憎悪と破壊衝動に突き動かされるデッドコピーと、モンスター達を比較すると、決定的な違いがある。
 それは、総じて知性が低いとは言え、行動にイレギュラーな面があり予測が付けづらい事にあった。出現した理由を推測し、出現を予測し、攻撃によって排除する事は出来るにしても、追い詰められたモンスターが最後の足掻きとして苦し紛れから暴れまわったり、支離滅裂な行動を取る事によって、思わぬ不覚を取る事も有り得る。
 しかし、それも今回の様な市街地での戦いならまだ良い。
 問題はこれが自然条件下で行われる場合である。
 何しろ、人間が作ったもので溢れている都市区域とその周辺部と違い、自然では温度・湿度・天候・植物・地形、その他周辺生態系の状況など、彼等の正確な行動予測を妨げる要素が幾らでも有る。しかも、行動を予測したとしてもイレギュラーな要因で行動そのものが変化してしまう事だって考えられえた。
 そもそも、自然界では気象・気候などが常に変容しており、去年と同じ時期・季節でも気象条件下が全く違う事などよくある話である。インファシティに現れたモンスター達もその例外ではない。
 更に極めつけとして挙げられるのが、自然化に放たれたモンスターと、それが織り成す歪んだ生態系の恐るべき環境適応性だ。大崩落の際、壊滅した各所の生体研究所から逃げ出した実験体や生物兵器達は、植物が再び焦土に茂り、自然環境が回復させていくのに合わせ、大破壊によって丸ごと崩壊したその地域の生態系に取って代わり、それを世界各所に広げていった。
 これによって各地域の野生動物達が次々に食い潰されて絶滅状態に追いやられ、元の生態系を見る影もなく崩壊させている。そればかりか、歪んだ生態系は大崩落から21年が経過した今、世界崩壊によって生じた空白地を次々占領、遂には、旧ユーラシア大陸を覆い尽くさんばかりに肥大化していた。人類の予想を遥かに上回る規模と速度を以って。
 その為クオレにとって、モンスター達は、機械生命体とは危険性におけるベクトルの差こそあれど、警戒を怠ってはならぬ相手である事に変わりはなかったのである。機械生命体に比べ、装備――攻撃性能で劣る事から、ベテランハンターの中には鼻歌交じりで彼等を狩
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まろやか投稿小説 Ver1.50