#10:バグ・ハンティング

オレにはどうする事も出来ない。それを彼自身が自覚しているから、尚更歯痒かった。彼に出来る事と言えば、這い寄る化け物たちを排除しながら、一刻も早く女の子が助かってくれと祈る事だけであった。
 周辺では、無事に救出された人々を乗せた救急車や輸送車両が、ハンターまたはイェーガー側の機動兵器の護衛つきで現場を離脱し始めていた。クオレの目の前で、護衛のハンターが飛来したソラックスを叩き落としている。
 クオレも、現れたバルバトスにビームを見舞って沈黙させた。たった1機の機械兵とは言え、各種兵器で武装したデヴァステイターの危険度はモンスターの比ではなく、近くに非武装の民間人がいれば殺される可能性が極めて高い。
 そこまで考え、クオレは機械軍団の中に憎んで止まぬファシネイターの姿があった事に思い出した。あいつがいるとそれだけで殺戮が始まってしまう。ましてや今のクオレの近くには非武装の救助隊員と助けを待つ女の子。絶対悪に堕ちたラストレイヴンにとっては格好の獲物である。今は来るな、今は来るなと、クオレは呪詛のように小さく繰り返した。
 もちろん這い出してきたアミダには、そんなクオレの胸中など知る良しもない。考えに耽ってもられないと即座に頭を切り替えたが、奴は近場のビルの隙間から、既に至近距離にまで迫っていた。
 咄嗟に、クオレ機は迫ってきた蟲を左腕で払い飛ばした。小型自動車程度のサイズしかなかったアミダは吹っ飛ばされて近くの路面に落下後、爆発した。
「危ねぇ……自爆される所だったわ」
 ナービス戦争や24時間戦争時代を知るパイロット達から語り草となっているはアミダの原種は現在、高等昆虫じみた利他的な狩猟を行うモンスターとしても有名である。まず、標的に接近した個体が、体内の化学物質を化合させて爆裂。衝撃と熱、そして飛び散った外骨格の破片とで獲物を倒し、他の個体が倒した獲物と自爆した仲間の残骸に群がり、食する――これが彼等のやり方だ。
 体内の化学物質が爆発の原因である為、迂闊な銃撃はそれだけでも自爆を誘発しかねないのだが、救助者や救助隊員の命がかかっている為、今はそんな事も言っていられない。クオレにとっては、自爆されるのが仕方ないのなら、被害の少ない遠くから倒してしまうのがセオリーであった。
 勿論、破片で救助隊員が傷を負う危険はあったのだが、幸いな事にアーマード・カファールやサイクロプスが楯になって破片を防いでくれていた。
「救助隊、まだ救出出来ないのか!?」
 苛立ち紛れのクオレがマガットを潰して訊ねるが、救助隊からは応答がない。殺されたという知らせもないので、恐らくは救助作業が正念場を迎えているのだろう。しかしながら、進捗は芳しくない事がうかがえた。
 幸いなのは、救助隊に向かってくるモンスターが現在途切れている事にあった。
 モンスターそのものは依然として徘徊し、実際クオレがアミダやマガットを粉砕した陥没道路の辺りには新たなマガットが何匹も出現している。だが、そいつらは撒き散らされた肉片を漁るだけで、救助隊を襲ってくる気配はない。恐らく死肉か血に惹かれて来たのだろうとクオレは見た。
 そのマガットを、アイアンシザースと呼ばれる巨大なサソリの様な姿のモンスターが尻尾で刺し貫いて餌食にし、巨大なダンゴムシを思わせるイソポッドが陥没地点から這い出して、焼け焦げたアミダの肉を食らっている。両者とも外骨格が非常に硬く、ハンター達からは簡単には狩れないと評判である。
「頼むからどっちも来るな」
 クオレの祈るような呟きが通じてか、あるいはマガットだけで満足したのだろう。
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まろやか投稿小説 Ver1.50