#10:バグ・ハンティング

 ずらりと並べられたイェーガーズチェイン所属ACB周辺で、大勢の整備士達が必要な道具をよこせと怒鳴り、レンチの音や溶接の火花が散る音が響いている。
 地上の格納庫からACBやAC、MT、その他兵器が出撃を急ぐ中で、クオレは地下格納庫に移動していた。その手には既にチェインから発行された兵器貸出許可証が、指先で軽く握られている。ハインラインからの出撃要請に続き、兵器を借りて来いとの通達から10分足らずで、クオレは予備機が保管されている地下格納庫に通され、現在、暫定的な搭乗機となるべき機体まで、ジープで案内されていたのだった。
 攻撃に耐えられるよう、南北に伸びる地下壕に作られた格納庫のうち、整備作業が行われているのは中央より北よりの区画で、残りの南区画では殆ど作業は行われていなかった。南区画は既に、すぐにでも出撃可能な状態に調整された機体が、倉庫同然に保管されている区画であった。北区画で整備されていたのは、半分が他所からやって来たイェーガー達の搭乗機で、残る半分は倉庫に保管されていた予備機だった。
 予備機はいずれも番号の振られた巨大なポッドに収められ、両側の壁に背を向ける形で並べられて保管されているが、クオレを乗せたジープはそのうち、38のナンバーが記されたポッドの前で停止した。ジープを運転していたスタッフがすぐにポッドの傍らのパネルを操作し、指定されたコードを打ち込んで行く。数秒のうちにパネルが発光し、チェインのスタッフと承認。クオレが見詰める中、直ちにポッドを開放した。
「こちらになりますが、宜しいでしょか?」
「ああ、問題ない」
 スタッフに頷き返したクオレは、ポッドの中に収められていた機体に再び目をやった。
 収められていたのはスティンガーだった。「刺客」または「刺す生物」を意味する機体名とは裏腹な、全体的に滑らかな曲線を描く胴体部。人間で言う太腿と上腕が露出しているような印象の手足、アーメットと呼ばれる騎士の兜を思わせる頭部は、クオレも何度も目にした機体である。
 近くでは、サイクロプスと呼ばれる機体も多数見受けられた。こちらはモノアイが目立つ角ばった頭部をはじめとして、クレストが手掛けたかのような多角的なデザインが特徴的である。一方のスティンガーも、ミラージュが手がけたと言えばそれで通じそうなデザインである。
 だが、それはクレストやミラージュが手掛けたものではない。否、そもそもACBと言う兵器自体、クレスト・ミラージュ・キサラギの何れも、開発には関与していない。
 スティンガーは旧イスラエルに本社を置くMTメーカー「インストリック・アルケミー・インダストリー」によって開発・生産・販売され、サイクロプスはアースガルズ大陸のMT製造メーカー「ティタノテック社」の製品である。両者とその製品は互いにライバルと言われており、今日のACBの代表格として、スティンガーとサイクロプスは世界的に知られている。
 ここに保管されているのは、そのサイクロプスやスティンガーに限らない。様々なACB――ひと昔前ではMTとしか呼ばれないようなシロモノまでもが、いつでも出撃出来る状態に整備されたうえで、ポッドに収められている。これらはいずれも、イェーガーズチェインが出資企業ならびに財団からもたらされた資金を元に、合法的に入手したものだ。
 中には敵であるレイヴンやテロリスト等の武装勢力から「押収」したものや、機械生命体に乗っ取られて暴れていたものに電磁パルスを照射した上で、一切の電子機器を取り払い、人類側の電子機器に入れ替える事によって「無害化」したもの、受注先と
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まろやか投稿小説 Ver1.50