#09:嵐の前

たが、果たしてそれが不幸か否か、クオレは解釈しかねた。
 確かに、未だに唯一の身内だと語った姉に会えずにいる事は不幸であるが、かと言って基地の外に出せばどうなるか分かったものではなかった。何せ現在のインファシティやその周辺部では、機械生命体の襲撃が相次いでいる。そこに放り出せば、待っているのは死あるのみだ。そして出来る事なら自分が約束通りに何とかしてやりたい所であったが、我が身を振り返りるとそれが出来そうにないと、クオレの目は悲しんだ。
「クオレ、聞いてますか?」
 ハインラインに言われ、クオレは不意に向いていた避難民や孤児たちへの視線を担当オペレーターへと戻した。俺はあくまで孤児の保護じゃなく、デヴァステイターの殲滅に来たのだと思い出した上で。
 ハインラインは特に咎める様子は無かった。そもそも、こういった感傷など、クオレにはいつもの事だと分かっていたからである。任務に支障が出ると言うわけでもない為、ハインラインには笑って許せるレベルであったのだ。
「また、地球政府の戦力も続々とインファシティ入りしている他、アースガルズ連邦の極東方面軍がインファシティ湾岸部に集結中です」
「ついに政府側も本腰を入れたのか……」
 これまで、インファシティではハンターやイェーガーの他、政府側戦力も動いている事をクオレ達は聞いている。だが、それは東方人民連合の政府首脳部が、周辺地域に駐留している兵力を動かしているだけに過ぎなかった。しかしながら、インファシティの被害があまりにも大きかったと見え、政府側も遂に看過出来なくなったようだと、若きハンターは見て取った。
 因みにアースガルズ連邦は、地球政府の旧北米大陸における統治機関が独立したもので、「地球政府への加入」を条件としてではあるが、新生地球政府樹立後、初めて独立国家政府として認められたという経緯がある。現在では旧北米大陸のほぼ全土を統治するまでに至っており、破竹の勢いで軍備と影響範囲を拡大していた。
 地球政府設立からまだ21年、アースガルズ連邦政府もまだ設立から10年しか経過していないため、現在、両政府はあらゆる部分において手探りの状態が続いているが、それぞれの地域における各種法案は監督・実施されており、それらは一定の成果を挙げている。
 だが、その多くに機械生命体やモンスターの妨害があり、進捗状況は思わしくないのが現状であった。
 一方の東方人民連合は、もともとバーテックス戦争前に旧大陸東部を治めていた統治機構が、地球政府樹立後、加入を条件に国家政府への昇格を承認されたものである。
 しかしながら現状では、そうした政府の事は報酬をくれるならあまり関係ないと言うハンターが多数である。
「で、機械生命体はどうなってんだ?」
「インファシティ西へと集結しています」
「タルタロスにでも集まってるのか?」
 アニマドが疑問を呈す。先を越されたが、クオレも大筋で同じ意見であった。
 そもそも、以前インファシティを襲撃したデヴァステイターが行方をくらました、と言うのがタルタロス周辺だったと言う点からして、怪しいと思っていたところだったのだ。
 だが回答を待たずして、基地全体にアラームが鳴り響いた。外敵の襲来を知らせる合図だ。
「また機械か……」
 クオレから不満が漏れる中、アニマドは即座に機体へと駆け出した。
「じゃあな、くれぐれもくたばらんでくれよ」
「ああ、生きて帰れたらまた会おう」
 戦友の姿を見送る中、クオレは思い出した。グラッジパペットはレイヴンキラーによって大破させられていた事に。
「グラッジパペット
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まろやか投稿小説 Ver1.50