#09:嵐の前

いとも言い切れないとさえ、クオレは思っていた。自身の長所である、激昂時でも的確な操縦を失わない原因である電子頭脳が、今、頭の痛い問題となって彼に圧し掛かろうとしていた。
「と言うか、クオレさんは少し落ち着いたほうがいいと思います。只でさえジナイーダの前では暴走気味だったんですから」
 アルジャーノンが至極当然な事を言った。あの忌まわしいヤツの名を出すなと思ったクオレだが、言っている事は間違いではない点に、拳を振り上げようとした寸前に気が付いた。そして、本当に自重しなければダメだと再認識させられたのだった。
「……すまん」
 小さく呟いた一言が、彼のそんな態度を明確に示していた。
「ハインライン……」
「何です?」
「……13歳のガキに注意される20歳ってどうなんだ?」
 小声で訊ねてきたアニマドだが、ハインラインは何も言い返せなかった。彼から言わせれば、今のクオレの姿は情けないにも程があったのだ。だが、ここで迂闊な事を言ってクオレの機嫌を損ねるべきではないと、彼は良識的な見方をしていた。
 そもそも、感情の起伏が激しい上にキレやすい気質のハンターである。激怒させたらどんな問題を起こすか分からないと言う懸念があったが、だからと言ってハインラインには見放す気も無かったのである。
 いや、寧ろ問題児だからこそ、自分が離れたらどうするという懸念さえ抱いていた。
「……悪い、聞いた俺がバカだった」
 しょうもないことを聞いてしまったと、アニマドは恥じるように俯いた。
 クオレ以下3人のハンターとハインラインは、イェーガーズチェイン・インファシティ支部の敷地内に入るまで、仕事に関する話は一切しなかった。レイヴンの残党やテロリストなど、イェーガーズチェインに敵対する武装勢力がレンタカーに盗聴器を仕掛けている可能性があったからだ。
 車をチェイン基地の駐車場に停め、全員が下車した所でようやくクオレが仕事の事について口を開いた。
「……俺がやられたあの戦いでの被害は?」
 ハインラインは眉をひそめた。
「レイヴンキラーにより、出撃したAC62機は軽量級2脚型1機、フロート型2機を除いて全滅です。スティンガーやスカイシミター等MT及びACBは、148機中52機が未帰還。航空機部隊も50機中8機が撃墜されています。しかも……」
 まだあるのかと、クオレはハインラインに注視した。
「昨日の事ですが、またファシナニヤラが――今度はレイヴンキラーやガロン、ドラグーンフライ、クラトランスなどを引き連れ、ジュイファシティに襲撃を掛けて来ました。ACB並びに戦闘機部隊の活躍により撃退には成功しましたが、戦場を離脱出来た2機のフロート型ACを除き、レイヴンキラーのためにAC30機が全滅させられました」
 撃破されたACのパイロットも全員殉職した事をハインラインは付け加えた。
「政府側はどうなってんだ? ここまでドンパチやって、東方人民連合も黙ってる訳じゃないだろうに」
 クオレはインファシティを治める東方人民連合の動向について尋ねるが、ハインラインからの返答は芳しくない。
「東方人民連合政府軍も戦力の半数近くを失っているとの事です」
「クソッ!」
 激昂したクオレは近くのドラム缶に蹴りを入れた。
「あの筋金入りのド畜生女をぶっ殺してぇし、フォーミュラーの仇も討ってやりたいのは山々なんだが……RKどもが居る限り手も足も出ねぇ……」
 若きハンターの顔が歪んだのを、アルジャーノンは見逃さなかった。
 元々、クオレはファシネイター以下24時間戦争当時のレイヴン達――正確にはその模
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まろやか投稿小説 Ver1.50