#09:嵐の前

人のために輸送機を出せるような状態ではなかった。
 ちなみに液体窒素での死体保管は、フォーミュラーに限らずハンターやイェーガー、さらには地球政府軍でも行っている。そこからどう埋葬するかについては、イェーガーズチェインの場合、当人の出身地や居住地の風習に任されている。アースガルズでは土葬が一般的なため、フォーミュラーもそうなるだろう事は、クオレにも分かっていた。というのも彼はアースガルズに赴いた際、戦死した同業者の葬式に立会い、土葬の後に墓標へ花を手向けた事があったのだ。
「ACのパーツは?」
 ハインラインは表情を崩さずに返した。
「彼が籍を置いている、アースガルズ大陸のイェーガーズチェイン基地に送り返されます。形見として何か持って行くと言うのであれば、どうぞ」
「形見、か……」
 クオレは呟きながら、フォーミュラーと共に戦った時の様子を回想した。
 去年、クオレはアースガルズ大陸西海岸のオールド・モンテレーに居た時、モンスターの巣を討伐する作戦で他のAC乗り達と共に突入、巨大なウジが蠢き回る巣の中でマシンガンを撃ちまくり、巣の最たる住人たるウジと、巣に入り込んでいたヴァンパイアを次々撃破していたものの、敵の巣の中で弾切れとなり、レーザーブレードを頼りに戻るしかなくなった。
 その際、彼の脱出をカバーしてくれたのが、偶然付近で戦っていたフォーミュラーだった。
 フォーミュラーと偶然遭遇したクオレが一人で戻る意を伝えると、フォーミュラーは「ブレードだけでは心許ないだろ」と言い、ハンター達の築いていた前線陣地まで随伴してくれたのだった。その後は単独で戦っていたクオレに随伴し、巣の壊滅までその戦いに同行してくれていた。当時のフォーミュラーはBマイナスと言うハンターランクだったが、スタンダードな戦闘スタイルで手堅く戦う様子を、クオレは評価していた。
 その後、クオレがアースガルズ大陸西海岸に向かう機会が2度あったが、その都度フォーミュラーと共に戦って来た。戦って来た相手は機械生命体とモンスターで、レイヴンと戦う事はなかったが、性格的に共感出来る部分がある事から、依頼後に共に飯を食いに行ったりと、プライベート面での付き合いも悪くなかったが、かと言って特筆するほどの仲でもなかったような気がしていた。
 だが、それでも共に戦った同志であり、機会こそ少なかったが苦楽を共にした仲である。死んでよかった、等という気は欠片もない。
「それより、君の身体の方はどうなんですか?」
「一応歩きは大丈夫だと言う事が先ほど判明したわけだけどな……」
 ハインラインに問われ、クオレは身体の動作を確かめるように開閉される右手へ視線を転じた。続いて、左手にも。
「……うん、腕も大丈夫そうだ」
「だと良いんだが……」
 アニマドの表情は晴れなかった。
「ドクターが言っていたが、お前に内蔵された電子頭脳……あれが不安定だというのが気に掛かる。ハンター稼業に支障が出ない事を願うばかりだが……」
「全くな」
 電子頭脳が不安定である以上、そのサポートはあまり期待しない方が良いなとクオレは心に記した。だがそれは、自分が暴走した際、その歯止めが効かなくなる可能性もあることを意味している。特に彼が憎悪して止まぬジナイーダが現れようものなら、激昂のあまり周囲が見えなくなり、敵に付け入る隙を与えることになりかねない。クオレにとってそれは致命的と言わざるを得なかった。
 自重したい所であるが、しかしながら電子頭脳がジナイーダへの憎悪を学習し、ふとした事で脳に作用して彼を激昂させてしまう危険性が無
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まろやか投稿小説 Ver1.50