#09:嵐の前

「ったく、此処までひでぇ有様だとはな……」
 常人からすれば奇跡的であり、強化人間全体で見ればそれ程珍しい事でもない急速復活を遂げたクオレは、病室を抜けてナギダ達と別れると、アルジャーノン、ハインライン、アニマドの3名を伴い、負傷者がごった返しているアンファン病院の駐車場へと出て行った。
 意識を失っていた2日間の出来事――アニマドによって自分たちが発見・回収された事、フォーミュラーが落命した事、インファシティからデヴァステイターが駆逐された事などは、すでにハインラインとアニマドから伝え聞いている。ジオストラが一命を取り留めたものの、いまだ意識が戻らない事も、彼の病室を訪れて確認した。
 だが病棟の外はそれにも増して酷い有様だった。市街地でファシネイターやその他機械生命体群が暴れた事で、インファシティ内に重軽傷者や死者が溢れ返り、アンファン病院を初めとする各医療機関はフル稼働だったが、それでもとても処置しきれるものではない。
 事実、クオレが見る限りでは駐車場どころか道路にさえ重軽傷者が溢れかえっている。
 そのため、最早医療関係者だけでは人手が足りず、ボランティアや、さらには搬送されて来た患者に付き添っていた家族や近親者までもが手伝わされるほどであった。しかしながら、人員が間に合わず、手当てされぬままに放置されて死ぬ人間が相次いでいだ。
 クオレの目の前でも、袋に入れられて担がれている死体や、半死状態でストレッチャーに横たわったままの負傷者や、駐車場の各所に設けられたテントに担ぎ込まれる重傷者が散見された。しかも、ベッド代わりに負傷者を横たえているストレッチャーでも最早足りないと見え、地面に敷かれたシートの上で横たえられた人まで居た。しかも、その中には傷だらけのまま放置され、既に事切れた者も少なくない。
 情勢不安定地域に向かっていたり、レイヴンを抹殺したりとで人の死は見慣れているクオレであるが、こう言った罪のない人間が苦しみ死んでいく姿は、何度も見たいとは思えなかった。
「これじゃフォーミュラーが助からねぇ訳だ……」
 そして、クオレは病院がこんな有様だった為に、搬送されたハンター及びイェーガーの中で最も重篤な状態だったフォーミュラーが、処置が遅れて死んだ事を聞かされていた。
「特別親しいって訳じゃないが、やっぱ仲間が死ぬのは胸糞が悪い」
 クオレの言い分と気分は、他の面子にも分かった。とりわけ、価値観が似ているアニマドは内心で同情すらしていた。彼自身もジナイーダや機械生命体との戦いで、何人も戦友を失っているし、彼と同時期にハンターとなった者の半数近くが、既に依頼で命を落としているからだ。
 長い間人の生き死にを見てきたハインラインでさえ、病院とその周辺の悲惨な有様には目を覆いたい気分であった。だからクオレの心境は察しており、とやかく言うまいと決めていたのだった。
 重い気分のまま、一同はハインラインに案内され、病院から離れた所の路肩に停車していたレンタカーに乗り込んだ。これはハインラインが借りてきたもので、ハンドルはアニマドが握った。
「フォーミュラーの遺体はどうなったんだ?」
 車が発進するや、すぐさまクオレが訊ねる。
「液体窒素で低温保存されています。そう遠くないうちにアースガルズ大陸へと帰る見通しですが……それはもう少し先の事になりそうです」
 ハインラインによると、デヴァステイターの襲来により輸送機を出せない状態が続いているとの事である。ましてや現在輸送機は周辺地域への救援物資輸送において大きな役目を果たしており、戦死者一
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まろやか投稿小説 Ver1.50