#33.外来者

 レイヤード第一層、セクション720――相次ぐ戦乱で荒れつつあったレイヤードの中でも、このアヴァロンヒルほど殺風景な場所は無いだろう。
 濃灰色の厚い雲に覆われた空の下には、草木の一本も生えていない、乾ききった茶色の大地が延々と続いている。それだけでも荒れ具合は十分なほどだったが、そんな荒涼とした大地は、更に殺伐とした印象を抱かせるアクセサリーに彩られていた。
 これまでの戦いにおいて生じた出し殻である、無数の残骸だ。
 量産型のMTの残骸もあれば、AC、戦闘機、軍事用車両、果ては管理者が操る巨大な機動兵器の残骸もある。それらには、何時こうなったのか判らないほど錆び付いたものもあれば、つい最近破壊されたものもある。損傷の程度は千差万別だ。殆ど傷付いていないものもあれば、高熱に曝されて、溶けた蝋燭のような凄まじい姿を曝しているものもある。中には白骨化した搭乗者をその内に閉じ込めているものもある。
 そんな、砂と鉄屑で彩られた死と破壊の博覧会場に、先日、新たな陳列物が加わった。レイヤード第3アリーナに暴帝として君臨していた偉大なボス・BBと、彼が駆る逆間接ACタイラントである。
 此処にこうして転がっている以上、このままの姿で、静寂に包まれた悠久の時を過ごす所であったが、突如として、その無残な鉄塊が、蒼白いACによって荒々しく踏み潰された。
 中量級2脚にしては繊細な印象を持つ、蒼白い脚部に接続された上半身は、これまた蒼白く繊細なイメージを持つが、しかしその印象には一見そぐわない、バズーカと大型のレーザーブレードを携えている。
 他でもない、その暴君を冥府に追い落とした剣豪―――ヴィエルジュである。
 ヴィエルジュの上空では、先程まで彼女を輸送していたヘリが飛行していた。アストライアーは愛機を投下させる際、わざわざタイラントの残骸の上を指定したのである。BBが死んだ今となってもまだ、彼女の中の憎しみは消えていなかったのだ。
 いや、家族を殺され、人生を滅茶苦茶にされたのだから、未だに憎しみが消えぬのも、感情論的にいえば必然である。
「また、此処にやって来ようとは――これも宿命と言うべきだろうか……」
 タイラントの残骸を愛機の足で踏み砕き、女剣士は呟いた。
「オペレーター、救難信号は?」
 感情も何も無く、ただ目的を遂行する機械兵の様に、アストライアーは通信モニターの男性に問いかける。そのネームプレートには、やはり「オリバー=ヴィステージ」の文字が見て取れる。最早彼女にとっては慣れっことなった、ミラージュの通信士。つまりオリバーの存在は、今の女剣士がミラージュの依頼を受けて出撃している事を裏付けていた。
『反応はあるが、砂嵐が酷過ぎて分からん。君のACのレーダーでも分からないだろう』
「チッ、所詮安物か」
 いつしかヴィエルジュの周囲一帯には砂嵐が発生し、荒野の大気をも錆色に染めた。だが舞い上げられた砂がレーダーに干渉、ノイズが発生し、反応が明滅する。
 そんな中、アストライアーは自らの後方に目をやった。視線の先では、ミラージュの社章を持った同型のAC輸送ヘリがホバリングし、ぶら下げられたACを次々に投下している。その中心には、ミラージュ重装型のフレームを持つACが降り立っていた。
 アストライアーには分かっていたが、そのAC部隊は、ラルフ=グローサ率いるミラージュ第5AC部隊に所属する4機のACである。以前はこの倍近い数を擁していたのだが、ここ数日の戦乱(大抵は実働部隊と、それに伴う暴動鎮圧が主だったが)により負傷者・戦死者が相次ぎ、作戦機が
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まろやか投稿小説 Ver1.50