た強化人間であった事、そしてキャノン系武器発射制限なし等の特権的特徴を持っている事で、「力こそ全て」と言うレイヴンの価値観上、処置していない人間が見下されていた事から、強化人間に対して良い印象を抱いていない。
ましてや、ナギダはクオレに不完全な処置を、しかも実験同然に施した男なのである。人の身体を何だと思っているんだと、正義感の強いアルジャーノンは看過出来なかったのだ。
「やめろ、アルジャーノン!」
その中で、突如として若い男性の怒鳴り声が響き、全員がその方向を注視した。視線の先で、クオレはその両目を見開き、半身を起こしていた。
「先生を責めんじゃねぇ。これは俺が望んだ事だ。あのクソッタレを潰す為にな」
それどころか、クオレは早くもベッドから抜け出し、その両足で床のタイルを踏んだ。そして自身が今まで病室で寝ていた事を察知すると、両腕を軽く振り回して動作を確認する。特に動作的には異常がないようだった。心電図や、先程激しい動きを見せていた脳波計も安定していた。
その傍らでは白衣の男が、クオレに繋がっていたコードを外して行く。
「クオレ……さん?」
アルジャーノンはまだ信じられない様子だった。だがそれも当然のことで、少し前まで昏倒していた男が、何事もなかったかのように立ち上がったのである。我が目を疑うのも無理のないところだ。
「目覚めてたのか?」
「おかげさんでな。あんたが手の込んだ強化人間だとか何とか言ってたあたりでな」
クオレの視線に当てられ、アニマドは苦笑した。
「それより、復活して何よりじゃないか」
確かになと、クオレは頷き返した。露骨に話を逸らされたような気がしたがこの際無視する。
「大丈夫……なんですか!?」
「俺? ああ全然」
アルジャーノンの顔に安堵の表情が浮かんだ。
「どうやら元気そうですね」
「当然だ。あのド畜生を殺し尽くすまで死んでたまるか」
ハインラインの声にも素早く反応する。その声はハインラインやアルジャーノンには聞き慣れた、いつものクオレであった。
「とりあえず、君の処置自体は完了しています。ですが電子頭脳が少々不安定なようです。日常生活に置いては支障はないでしょうが、戦闘に影響が出る危険性は否めません」
「そりゃまた厄介な……」
クオレは苦い顔となった。
「ってか、俺の脳ミソは大丈夫なんだろうな先生!?」
ナギダから伝えられた事象を思い出し、クオレの顔面から急に血の気が引いた。
「電子頭脳って言っても脳ミソとリンクしてんだろ!? だから何か電子頭脳がイカレたせいで脳ミソに異常が起きるって可能性は!?」
落ち着いて下さいとクオレをなだめた上で、ナギダはクオレ自身の脳が大丈夫であると告げる。
「プログラムに若干変調は認められたものの、あくまでも電子頭脳だけですので、君の脳には全く異常はありません。電子頭脳に頼らない行動――例えば食事や、掃除、整理整頓と言った日常生活的には特に影響が出る事はないでしょう。それに、マルジナントキニンも投与しています」
ナギダが手掛けたものに限らず、強化人間には脳の働きを安定させる為、マルジナントキニンと言う物質が投与される。これは強化人間達の脳をその死後に解析した所、検出された特殊な脳内物質で、ナギダはこれを周辺の医療スタッフに成分解析させ、作成させている。
それまでに人格破綻者や異常性癖・行動者ばかりというイメージが付き纏い、アルジャーノンからは嫌悪されていた強化人間達の中に、今日、アニマドなどの比較的マトモな人間性を有する者が目立ってきているのも、この物質の賜
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