#08:敗残者

った。
「因みにジオストラはそこです」
 ハインラインが奥のベッドに視線を投じた。病室内は6つのベッドがあり、それぞれに患者が寝かせられていた。患者の容態は人それぞれだった。パイロットスーツのまま搬送されて来た、見るからにイェーガーの類だと分かる男が居る一方、呼吸用マスクをつけられて寝かせられている少年の姿もある。
 アルジャーノンは、病室入り口から見て左側、最も入り口側に近いベッドに寝かせられているが、ジオストラはその向かい側のベッドで寝ていた。
「彼は足と肋骨を骨折し、一時危篤状態になっていたほどでした。手術の末に一命は取り留めたようですが……当分、戦列に立つのは無理でしょう」
 戦線離脱は自分も同じ事だとアルジャーノンは思った。なんにしても、身体中を包帯に巻かれたその姿は、見ていて気分がいいものではない。
「クオレの様子を見に行くか? あいつはこの上の階にいる」
 アニマドに頷くと、アルジャーノンは先輩の容態を確かめようと病室から抜け出した。ハインラインとアニマドも、当然のようにその後に続いた。


「早く! 逃げるのよ!」
 ある街で、彼は女性に急かされていた。周囲では人が死に、民家が砕かれて業火に包まれている。逃げろと叫んでいるが、砲声と爆音に遮られ、彼には良く聞こえない。
 それでも、逃げなければいけないことは本能的に分かっていた。爆発音と砲声から逃れるように、まだ火の手が及んでいない前方へとひたすらに駆け出す。だが、足がもつれて転んだ。
 先を走っていた女性と、彼の手をとっていた若い女性、後に続いていた幼女が彼に気が付き、駆け寄ってくる。
「しっかり!」
 皆に起こされた彼だが、その直後、周辺でマンションが砕かれ、悲鳴と共にまた多くの人命が奪われた。周辺に破壊を阻止すべきACやACBの姿はない。ただ破壊都市の光景、街を嘗め尽くす炎、そしてその中から姿を現し、逃げる人間達を無差別に殺して回るACの姿があるだけだった。紫と灰色のツートンカラーに緑のセンサーアイで彩られた禍々しいフレームに、レールガンとマシンガン、パルスキャノンとミサイルを背負った、24時間戦争以来多くのレイヴンを葬ったあのACが。
 忌まわしいその機影は、射撃の矛先を、自分達の数十メートル後ろを走る幼女とその母に大して向けている。悲鳴を上げる間もなく母と娘が跡形もなく粉砕され、更に自分達の近くを逃げていた別の女性や子供たちが、情け容赦なく殺されていく。
 そこで、女性2人が自分と幼女を物陰へと突き飛ばした。
「にげて! おかあさん! おねぇちゃん!」
 少年の叫びを掻き消すかのように、マシンガン・YWH13M-NIXの銃声が響き渡る。
「おかあさぁぁん! ティナおねぇちゃぁぁん!!」


 クオレは病室で呻いていた。何が作用しての事かは分からないが、彼は12年前、全てを失う事となったあの忌まわしき日を、悪夢として追体験させられていたのだった。それはクオレが、まだ生命反応を有している事を示してはいたものの、精神的外傷――トラウマに苛まれ、苦痛を感じるかのごとく身をよじって苦しむその姿は、決して彼が安穏な状態にあるとはいえなかった。
「電子頭脳が動作不安定。EEGも激しく動きを見せています」
 クオレの脳波図が激しく波を刻んでいる。
「もう一度マルジナントキニンを投与しますか?」
「いや、その必要はないだろう。処置は既に終わっている。後は彼自身に全てを任せるより他ない」
「失礼します……」
 少年の声が聞こえて来たので、白衣の男性2人は反射的に振り返った。視線の先に
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まろやか投稿小説 Ver1.50