#31.Bleu Neige 〜蒼い雪〜

 全く、最近は一寸先が闇だ。
 今更そんな事に気が付いてどうするんだと言う気を抱えている中、マナ=アストライアーは6月14日の午後1時22分現在、ベッドに横たわっているエレノアの傍らにいた。
 彼女はモスグリーンのコートに身を包んでいた。北半球の地下に存在し、地上の環境を再現しているのが基本であるレイヤードなので、6月としては場違いな衣装ではあるのだが、管理者の異常が囁かれているこの時勢に置いて、その指摘は愚というものである。
 管理者の何が狂ってしまったのかは定かではないが、6月だと言うのに第1層の一部セクションが厳寒となっていたのである。トレーネシティを例に挙げると、最高気温は摂氏7度、夜に至っては氷点下を記録したと言う異常事態である。更にトレーネシティでは報告されていなかったものの、別の都市では水道管が凍り付き、第1層の都市・セクション767では降雪まで観測された。
 その為、急激な気温変化によって体調を崩した人間が多数発生してしまい、風邪を引いたエレノアもその一人となってしまったのである。昨日一昨日と連日30度越えの猛暑が続いていただけに薄着となっていた事が災いした。しかしそれも仕方のない事である。そもそも、夏場に気温が氷点下に下がるとは誰も想定などしていない。自然界では決して有り得ない事だからだ。
 しかしAI管理機構によって管理されるレイヤードである。神と同義と扱われるとは言え、所詮は人が作り出した機械。故障とそれに伴う異常事態は考えられ得た事だった。レイヤードの人間の中にはまだそれを知らぬ者もいるが、少なくともアストライアーには周知の事実だった。
 だが、エレノアの看病に追われるアストライアーに、そんな事を考える精神的余裕はとてもではないがなかった。
「ううぅ、さむいよぉ……」
 エレノアが布団の中で小刻みに震えていた。寒いと言う事なので、まだ熱が上がるかも知れないとアストライアーは嫌な顔になった。寒気を覚えていると言う事は体温上昇のサインであると言う事を聞いた覚えがあったからだ。
 しかしながら、アストライアーは医者ではないので分からない事が多かった。一応エレノアは小児科医には連れて行き、処方箋を貰い、先程与えた。にもかかわらず、エレノアが寒いと言うので、アストライアーはそれが風邪だけが原因ではないだろうと薄々察知した。
「全く、こんな時にエアコンが故障とは……」
 アストライアーやエレノアの白い息が、室内の低温を、そしてエアコンの動作停止状態を物語っている。
「アストライアーさん、エアコンの件ですが……」
 ドアをノックし、修理要請に基づいて現れた作業員2人のうち、先輩格の方が顔を覗かせた。エレノアにちょっと待っててくれとだけ言うと、アストライアーは作業員を伴ってエレノアの部屋からリビングへと移った。
「先程確かめたのですが、電源系統以外にもリモコンがおかしいようなのでこれから交換に掛かりますが……」
「直るのにどれぐらい掛かる?」
 この寒さがいつまで続くかは兎も角、夏場の猛暑の中で冷房が使えないとなると困るので数日越しで使えないのは勘弁して欲しいのだがと、アストライアーは内心で思った。猛暑にしろ、今の寒さにせよ、エレノアに文句を垂れられるとなると面倒だからだ。
「そうですね……部品交換すれば住むので数時間で直ります。遅くとも夕方までには」
「分かった。では、早速修理を頼みたい」
「承知しました」
 修理屋たちは早速エアコンを壁から取り外しに掛かった。
「ところで、私はこれから数時間ほど留守にしなければならないのだが
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まろやか投稿小説 Ver1.50