#06:クオレの人となり

帰還してきたが、彼等からもジナイーダへの罵詈雑言や陰口等が吐き出されていた。しかし、クオレは勿論だが、誰もその事を咎める様子はない。悪逆非道のラストレイヴンは、ハンターやイェーガーにとっては恨み骨髄の相手であるからだ。
 元々ハンターには、ジナイーダに限らず機械生命体に家族を殺されたり、住まいを破壊されたりした元民間人も多く、機械生命体に対して復讐を誓っている者も少なくない。そして、その忌むべき宿敵に全てを売り渡し、彼等の一員となった事で、ジナイーダはハンター達の激しい憎悪を買っていたのである。何もクオレだけが取り立てて素行不良、と言うわけでもない。
 寧ろ、クオレはハンター全体からすれば地味な部類にあった。
「よおクオレ、まだ生きてるか?」
 そのクオレよりも明らかに数段目立つハンターが、背後から声を掛けてきた。反射的に振り返ったクオレは、オレンジ色の派手なパイロットスーツに身を包み、所々逆立った茶髪と蒼い瞳をした、ちょっと色黒の青年を認めた。
「この通りだ、フォーミュラーさんよ」
 旧友の登場に、クオレの口調も自然と砕けたものになった。
 フォーミュラーは今年23歳を数える若手のハンターで、元々は地球政府軍のACBパイロットだった。だが、厳格な職務規定に付いていけずに除隊しハンターに転向、愛機をスティンガーからAC「ザルトホック」に変更し、各地の戦場で成長著しい活躍を見せていた。クオレとは、去年アースガルズ大陸において、モンスターの巣を討伐する作戦で、共に戦った知り合いである。
「と言うか何でお前がここに居るんだよ? 雇われたのか?」
「ビンゴ!」
 フォーミュラーは右手の人差し指を向けて笑った。
「なんて現金なヤローだ」
「お前も似たようなもんだろ」
 俺はクソッタレのド畜生女とその仲間のメカ軍団を潰す為に招かれたのであって、一緒にされる筋合いは無いとクオレは思ったが、こんな程度で腹を立てるのも大人気ねぇなと思ったので押し黙る。実際、報酬を積まれてやってきて、先程も報酬上乗せと引換えに滞在延長申請をして来たと言う点においては、フォーミュラーと似たようなものだからだ。
 そのフォーミュラーが、話に付いて行けずに唖然としていたアルジャーノンの姿に気付いた。
「ほう、お前さんか。13でACに乗ってる中二病全開のヤツってのは」
 フォーミュラーの口調には侮蔑の色が漂っている。当人からすれば敵意は無い心算かも知れないが、少なくともクオレはそう感じた。同時に不快感を覚え、一瞬カチンと来た。
「おい、あんまり言うなよ。いざ相手取った時に痛い目見るからな」
「冗談だ。喧嘩を売る心算はないぜ。最も今は喧嘩を吹っかけたくても出来ない状態だけどな。さっきの交戦で足をやられた」
「ご愁傷様です……」
 アルジャーノンが小さく呟くように言ったのが、フォーミュラーに聞こえた。
「ああ、心配すんな。壊れたのはMLM-MM/ORDERの片足だけ。安モノ脚部だから代替はすぐにでも注文できるんだからな」
「そりゃ良かったな」
 クオレは笑った。
「ちょっと、クオレ!」
 そこにハインラインが駆け込んできた。今度の彼は鞄を持っていない。
「経費申請はしましたか!? 締め切りギリギリですよ!」
「やっべ、忘れてた」
 締め切りまであと1時間ぐらいしかないんですから早くして下さいとハインラインに急かされ、クオレは彼に連れられる形で、大慌てで経費申請へと駆け出した。
「あの若造、また何かやらかしたらしい……」
「ゴミナントに喧嘩を売って、また巻き添えでも出したんじゃねぇの?」

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まろやか投稿小説 Ver1.50